中編・短編


□Miracle of Halloween
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※ハロウィーンに投下したネタ「私じゃない私の命日」を先に読んでいると分かりやすいかもです。
※リリー成り代わり主とセブルスは結婚済み、子供も二人居て家族で魔法薬学のお店をやっています。
※原作はハリーが一年生……に入学する前の年くらい…かな…?←聞くな


毎年、校内が浮かれるこの日だけは、朝から晩まで身を切られる思いがする。何年経とうが、彼女を亡くしたあの絶望からは逃れられず、近付く度に憂鬱で、眠れぬ夜とて普通だ。故に、それは求め過ぎたがために起きた自分勝手な魔法だったのだろうか。

「…………リリー?」
「……セブ?」

自室に、燃えるような赤い髪を持つ女が居た。生徒の格好では無い。声をかける前に、あまりの既視感に愕然とした。それはついこの間の出来事かのように思い出せる愛し人の亡骸で、しかし目の前の現実では確かに動いていた。零れ落ちた問いかけに振り向いた視線は柔らかく、首を傾げるその様に、私の名を呼ぶその声に、冷静になる前に彼女を抱きしめていた。

「!」

彼女は少々驚いたものの、私を拒むことなくその腕を背に回してくれた。涙が溢れて止まらない。柔らかな髪も、優しい手も、温かなぬくもりも、何一つ失わないままのリリーが其処には居た。きっとハロウィーンでなかったなら性質の悪過ぎる悪戯に憤ったことだろう。冥界の門が開き死者が戻るとされる日に腕の中に返って来た存在を、私は疑うことも拒むこともしなかった。

「すまない。すまなかった。リリー、リリー」

只管に謝ることしか出来ない私の腕の中で、リリーが動いた。少し腕を緩めて動いている彼女に感動していると、そろそろと上がる彼女の手が私の頬を撫でた。伝っていた滴を拭われるその手に、何度触れたいと願ったことだろう。その掌取って唇を寄せても、リリーは何も言わなかった。

「セブ」

柔らかい声に、勘違いしてしまいたかった。その勘違いが許されるのだと背中を押された気になった。己の目で確かめてしまったのに、彼女が生きているのだと錯覚したかった。困り顔の彼女は今私だけの存在なのだと、自惚れたかった。

「ごめんなさい、セブルス。まだちょっと混乱しているのだけど……多分、私は貴方の呼ぶリリーでは無いと思うわ」
「……リリー?」

淋しげに笑うリリーはリリーでしかないのに、彼女は不思議なことを言った。

「並行世界…パラレルワールドって、信じる?」

瞬く時でも私を気遣ってくれる彼女は、勘違いなどでは無く、生きている存在らしかった。



***



私の命日去年のハロウィーンを無事に突破したことですっかり気を抜いていた私は、我が子の悪戯というか暴発した魔法に巻き込まれて実験途中だった薬品をいくつか被った。黒髪の見た目はセブルスに近いのに中身が私に似たのかやんちゃにも程があって、これはきちんとしつけなきゃなあ、と喋りすらままならない息子のことを思っているうちに、周りの風景が変わる。……これは、私が移動した、という方が正しいのかなあ。
薬品が並んでいる棚はお店のようだったけれど、ベッドがあるところを見れば寝室兼私室なんだろう。見たことがある部屋だなあと思ったのは確かだったようで、ホグワーツの魔法薬学教授の部屋だったことを思い出す。スラグホーン先生元気かしら、と場所移動をしただけなのだと思っていた私は呑気に呟いた。けれど後ろから現れた人は、想像していた人では無かったのです。

「…………リリー?」

誰よりも驚いたのは私だと思う。だって先程まで一緒にいた夫がいつの間にか成長していた。十年くらいだろうか。っていうか、まるであの原作のセブルス・スネイプ教授じゃないですか。脳内敬語になりつつ「……セブ?」って首を傾けた。そうだろうなあとは思っていたけれど、これ幽霊でも見詰めてる目じゃないかな。まさかと思った次の瞬間にはもう、抱き締められていた。

「すまない。すまなかった。リリー、リリー」

吃驚はしたけれど悲痛な声で謝るセブルスに、流れ落ちるその涙に、心臓が押し潰されそうでゆっくり背中に手を回した。勘で分かった、此処は原作なのだと。彼は初恋且つ最愛の女性を失くして、哀しみと自分への怒りを押し殺しながら生きているのだと。
身動ぎする私に腕を緩めてくれたセブの頬に手を伸ばす。私は彼に死んでほくなくて、幸せになって欲しくて、たまらないのに。けれど私は、彼の求めるリリーでは無いのだ。それを何と彼に伝えればいい。セブルスは私の手を取って、掌に口付けた。その左手に揃いの指輪が無いことに気付いて、私は口を開いた。

「……リリー?」

突然並行世界がどうのと言い出した私にセブルスは混乱している筈だ。けれど、彼の涙が止まるなら言葉を紡いでいようと思った。

「私、初めは未来に来てしまったのかと思ったわ。私が知っているセブルスより貴方は年上のようだったし、もしかしてセブルスはホグワーツの薬学教授にこの先推薦されるのかしら、って。私を見た時の反応で、私はもうこの世に居ないとも。でも、セブルスが指輪をしていないから」
「……指輪?」

首を傾げたセブルスに、私は左手を見せた。

「同じ指輪が薬指にあると思ったの。私たちの結婚指輪よ」
「…………!、!?」

言葉は無くとも雄弁に戸惑いを表わしたセブルスに、泣きそうになってしまう。ねえセブ。私のセブルスは確かに旦那さんになってくれたセブだけど、この人もセブルスなのよ。

「私、1982年の10月31日から来たわ。二人の子供がいるのだけど、やんちゃな弟が魔力を暴発させてしまっていくつか実験中の薬品を被ったの。外見はセブルスに似たけれど、中身は私に似てしまったみたい」

微笑んだ私に、セブルスは絶句しつつもきちんと話を聞いてくれていた。そう、いつだってセブルスはリリーの話を聞いていてくれたんだろう。原作のリリーだって、どんな感情にせよセブルスのことが好きだったに違いない。

「そう……だからきっと、私は貴方の謝罪を受け取る立場に居ないんだと思う、でもね、私もリリーなの」
「……?」

さっきと言っていることが矛盾している。それに困惑するセブルスの目をジッと見詰めながら、泣きそうになりながら、それでも伝えたいって思ってしまう。
私は貴方の世界のリリーでは無い。だからきっと、本当の赦しにはならない。だけど。

「私がセブルスを大好きだったように、こっちの私もきっと貴方の事が大好きだった筈だわ。たとえそれがどんなふうに壊れてしまって、どんなふうに終わってしまったのだとしても、貴方を愛おしく思った過去は消えない筈」

そっと手を伸ばして、セブルスの頬を撫でた。大凡幸せから程遠いような、すべてを飲みこむ深遠の瞳は、何者からの侵入も許さない意志を持っていた。貴方の大義に見合うだけの幸せを、もしもこの一瞬私が与えることを許されるのなら。

「愛してるわセブルス。だからお願い。少しでも、貴方が幸せであるように願うことを許してね…」

ぐいと引き寄せた額に口付けて、ただこの刹那に貴方だけの幸せを願った。



***

こんにちはサクさん、ベロニカ管理人の湊です!お祝いコメントと企画へのご参加ありがとうございました^^
リクエストは短編リリー成り代わり主の続きか同設定で「原作と違って暗くも偏屈でもないセブがなんか女子にもてちゃって、原作を知るリリーさんは驚き&もやっと、からの、ずっとセブのターン(笑)みたいな話」か「原作始まってるパラレルワールドに飛んでしまって、あの状態の教授と出会ってしまう感じのお話」でしたが、もう後半の威力が凄過ぎて前半のリクエストも素敵だったのですが即決で後者を選ばせてもらいました。って言っても一応ハリーが入学する前なので原作前になっちゃいますかね(書いてから気付く、があげてしまいます)
もう原作のですね、教授も好きなんです凄く。教授視点は結局途中までになってしまいましたが、リリー成り代わり主が戻れたかどうかも合わせて闇のなかな終わり方にしてみたのでお好きに先を妄想してやってください←
楽しいリクエスト感謝です♪これからもベロニカを宜しくしていただければ幸いですー!




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