中編・短編


□夜露に君の名前は告げない
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今日は星座占い最下位なのかしら、と思うくらいには運が悪かった。都心から離れた場所で起きた割と大きな事件の捜査に警視庁からの応援として立ち合い解決まで導いた帰り道、後輩が腹痛を訴えて近場の病院に直行。そのまま入院となった彼に最低限の世話をやいて二十時半。友ちゃんに連絡すれば、哀ちゃんのところに遊びに行っているらしいのでそのまま泊めてもらうようお願いして。まあ日付を超える前には余裕で帰れるだろうと思えば突然の雨である。視界不良が次第に霧発生となって車を覆うので無理な帰宅は諦めた。しかし明日も仕事の身としては、なるべく早く温かいベッドで眠りたい。近隣に泊まるところといえば、親切にもチカチカネオンが輝く愛を唄ったホテルしかない。正直、入ったのは社会見学と称して元彼に引っ張りこまれた一度きりしかない。自分から率先して入ったことがない場所の壁って何故こうも高く見えるのだろう。というか、こういう場所って女一人でも入れるのだろうか。無人の受付でも監視カメラとかで人数確認はしてるわよね、何か聞かれたら待ち合わせとか言えばオッケー……?場所によるな、絶対。
ホテルの駐車場でそんなことを悶々と考えていれば、反対側の道からスローペースで曲がってきた車があった。そのまま隣に停められる車の運転手は、知らない顔ではない。

「あっ、赤井さん」
「奇遇だな」

その瞬間に多分、利害が一致した。



「お先お風呂いただきました。浴槽ピンクに光ってのジャグジーが豪華です」
「割とスタンダードな部屋の筈なんだが」

苦笑しつつお酒を仰っていた彼は立ち上がってシャワーの音を響かせに行った。備え付けの化粧水を肌に染み込ませながら、ちょっと不思議な気分になる。赤井さんとホテルにいるシチュエーションなんて、多分二度とないだろうな、的な。

「あ、浴衣発見。良かった。寝る時はこっちにしよう」

ガウンからさっさと着替えて髪を乾かしに入る。長さも重さも其処まで無い髪はドライヤーが短く済んでとても楽。そして温風がいい具合に眠気を誘う。

「男と二人でホテルに入ったわりに警戒心が足りないな」
「ほわぁ!?」

耳元を良い声が通り抜けて変な声が出てしまった。完全に髪を乾かした後、櫛を通しながらウトウトしてしまっていたようだ。

「…………忘れてください」
「はは、ブルーの保護者に相応しいというべきか、君の反応もなかなかのものだね」
「友ちゃんのリアクションは可愛くて頬が緩みますけど、計算し尽くされた無邪気さと仕草と声音が噛み合って絶妙なんです。ああでもそのままの友ちゃんの飾らない雰囲気も好きです……」
「……そんなに眠いのか?」
「赤井さんの色気ある声を聞いても一瞬しか覚醒しないくらいには……。すみません、支離滅裂ですね。さっきのは気を抜いていた私の素が思いっきり漏れたので記憶から抹消することをオススメします」

優秀な頭脳はどうでもいいことなど直ぐに忘れるだろうけども、一応言っておく。

「……初めから特に何をするつもりもなかったが、そこまで無防備にされると男としては微妙だな」
「ええー……」

そして噛み合っていないお互いの会話っていう。私が眠気に勝てず変な話運びしたことは認めるけど、赤井さんもあんまり会話する気なさそうだなあってぼんやり思ってしまうわ。

「通りかかったのが赤井さんじゃなかったら、私はドアロックして車で寝てましたよ」
「ふむ?その信頼を裏切らないで欲しいという主張かな?」
「というか……、」

言い掛けて口を閉ざす。明美さんのこととかジョディ先生のこととかを考えるに、赤井さんの恋愛事情はあんまり明るくないというか切ないものが多くて、今の気持ちは知らないけど、不誠実なことを進んでやるタイプではないだろうなあと思っていて。

「…………まあ私も一応大人ですし、自分の行動の責任は取れるというか、選択した結果どんなことになっても仕方ないという覚悟はしているというか」

一晩一緒に居たところで大丈夫だろうと思った。もし大丈夫じゃなくても、赤井さんならそこまでショックを受けないと思った。私は今現在特にお付き合いしている人が居るわけではないし、声フェチとしては赤井さんとの閨は腰砕け必至の……や、巫山戯ているわけではないです、眠いですが。どっちに転んでもまあ泣かないかな、と一応腹を括ってあるというだけなのです。

「でも見た感じ赤井さんも結構お疲れですよね……?長時間の運転とかだったんじゃないですか?」
「ベッドはダブルだが」
「ごめんなさい人が居ると気になって眠れないタイプですか?」

私は外で寝たこともあるだけに正直、布団があるだけでオアシスだし最悪床でも眠れると思う。でもどうせならベッドで寝たい。あくまでも翌日のことを考えて。

「あ、片側の足元の方だけでもスペースあれば十分眠れるので私の存在を無視していただければ」
「……眠気がピークに達してるのか?」
「え?まだ割と正気な方ですが?」
「良いだろう分かった。互いに気にせず普通に寝よう」
「はーい、おやすみなさーい」

やっぱり私はこの時移動続きにトラブルと、稀に見る不運乱発に疲れていたのだ。おやすみ三秒よろしく眠りについて、後のことは知らない。

「……まあ寝てしまうのが最大の防御というのはあながち間違いではないかもしれないな」
「余程の加虐趣味でもない限りこの寝顔は邪魔できない」
「…………本当にぐっすり眠っているな、巡査部長」
「悪戯されても知らないぞ、」

頭を撫でられる夢を見たとか、額に柔らかい何かが当たったような気がするとか、それらは睡魔とともに何処かへ沈んでしまったぼんやりとした感想で、起きた時に赤井さんの腕の中に居たという事実が全てなのです。

「…………赤井さん?」
「……起きたか、眠り姫」
「ええと、この体勢は……?」
「深夜に目覚めて寒かったのでな」
「あ、そうですか」

納得?しますよ!掘り下げて聞かなくても別にいいかなって思うので。何が乱れてる訳でも無し、抱き枕くらい全然平気。暖房入れたままだと乾燥するから、人間ホッカイロはエコだしね!

「あの、着替えたいんですけど」
「ホー」
「え、どういうリアクションなんですか?」

いや?と楽しげに笑われて、何だかちょっとキュンとした。アレだ、傍から見ると冷たそうな印象の赤井さんが寝起きだからか結構体温高くて、あと見慣れたニット被って無くてちょっと髪が乱れているとことかにギャップを感じただけなんだ。そうに違いない。





夜露に君の名前は告げない





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初めましてマイさん、ベロニカ管理人の湊です。以前からサイトに通っていただいているそうで、更新の波が有りまくりな拙宅ですが少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
リクエストは「ひだまり夢主で白馬か赤井さんとの甘い夢」ということで、大人面子の甘い夢書きたい!と思って赤井さんを選ばせてもらったのですが甘いかは不明です←
故に御希望に添えたかどうかは非常に微妙なのですが、書いてる本人はとても楽しかったです。書き直しも受け付けます。笑
企画参加とリクエスト、本当にありがとうございました。




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