中編・短編


□空谷の跫音
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突然「実は俺、前世の記憶があるんだよな」と言ったら、多分十中八九変な目で見られると思う。しかもそれが占い師だった、なんて補足すれば胡散臭さは倍増だ。本物か詐欺師か最早探偵に転職した方がいいのでは、と思うような凄腕調査員かに内訳が大きく分かれるだろうこの職業は、本物の中でも得意分野は別れるし専門知識以外はさっぱりだったりするわけで、一般的に日本人が占い師と聞いてイメージする水晶やら手相やらカードやらを用いない俺はより懐疑的な目で見られることも多かった。そんな知識があるのだから、勿論俺が昔の知識を引っ張り出すことも無く、子供時代は普通に過ごした。
しかしかつて俺が占いを勉強した所以は、身近な人達の困りごとを解決したい!というささやかな願いの為だったので、母の無くしモノを筆頭にちょこちょこ近所の人達用に相談窓口を開いた。失せモノの場所が知りたい時は大体ダイスを使ったし、見つかれば報酬におやつを貰えたので対価としては十分だった。怪我などはその人の人相と言うかオーラというか、雰囲気から一目で分かることもあったけれど、ささやかなものは放っておいた。完治が見込めるものも、縁を繋ぐ目的の悪いコトも、あまり助言らしい助言はしなかった。でもその内に、悪徳商法に引っ掛かり破滅へ向かっていく近所のばあちゃん(仲良くない)とか、通りモノに襲われるらしい小学生(隣町の子)とか見てしまうと、出来る限り何とかしてやりたいと思うようになってしまった。その時高校生だった俺は無力なりに出来ることをしたわけだけど、一般人が被害者から得られる信頼なんてそうそうないので、ああもうこれは警察官になるしかないな、と進路を定めた。安直だったことは認めるけど、結構これが英断だった気も今ではしている。

「萩原……ッ、……っ、!」
「ハハ、お前の泣き顔とか初めて見た……幸先いいな、こりゃ」
「っ……莫迦か、」

今病院の個室で言葉につまるほどボロボロになって泣いている奴は俺の警察学校時代からの悪友松田陣平で、ベッドに横になりつつ笑っているのはそんな彼と同じ機動隊に所属する無二の親友というやつで、死相が出ていた萩原研二へと半ば脅すように防護服の着用を約束させてから、なんと四年もの月日が経っていた。一命は取り留めたものの大怪我を負い目覚めなかった彼が、その原因となった爆弾魔を親友が捕まえたその日に意識を取り戻すとか、ドラマかってくらい気持ちの良いハッピーエンドで少なからず俺も感動している。

「あー、長かった……」

松田が来るまでは検査したりなんだりに付き合っていたけど、今までの心労もあったし二人の世界っぷりにお邪魔かなーと思ったので階段横の廊下で休憩中の俺。これからはリハビリから始まっていくだろうけど、もしかしたらあんまり俺の手必要ないかもなあ。凄く、彼らを繋ぐ縁が、強固に見えるから……。うん、幸せのオーラだし、祝福するけどね。いきなりすぎてちょっと吃驚したよね。あれか、試練を乗り越えて燃え上がった的な奴?
一仕事終わった気になってぼんやりしていた俺は、だからか壁を挟んで話しかけてくる男の存在を認識して普通にビビった。

「……何だあの入りにくい空間は」
「!?」

バッと振り向いた先に居たのは、警察学校をトップで卒業して行ったエリート童顔降谷零だった。所属を唯一濁したコイツは、それでも一年くらいは連絡取れていたのにぷっつりと音沙汰無くなって同期連中から忙しくしてるんだろうな……なんて遠い目をされる男で、予想が当たっていれば公安警察として動いていると思われる。

「久しぶり…………、うん、見ない間に苦労してるな」
「おい、ナチュラルに頭を撫でるな。あと質問に答えろ」
「うーん……障害が無くなって、一気に距離が縮んでエンダァアア的な?」
「相変わらず説明不足な奴だな」

誰でもがお前みたいに一目で分かる訳じゃない、と軽く足を蹴ってくる降谷は、初対面で俺が名字を当てたりしたことで一頻り警戒した後、周りの証言などを精査して俺の占いや勘を信じるまでに心を開いてくれた得難い友人だ。まあここだけの話、降谷の名字を言い当てたのでは全然なくて、何だコイツ聞いたことあるような声してんな……あ、声優の「古谷さん」とつい心の声が漏れ出ただけなんだけど、秘密な。

「俺も断片しか知らないけど、四年前の爆弾犯から今日警察に挑戦状が届いて、杯戸町のショッピングモールの大観覧車で松田が爆弾解体しつつ二個目に仕掛けられた爆弾の暗号解いて、解けずに怖気づいたふりしつつ罠張って犯人捕まえたらしい。報告に来たら萩原が起きてたから、今まで溜めて来た想いが爆発しているようだ」
「ああ、それで警官の配置が多かったのか……」
「ん?」
「俺はたまたま近くを通っただけだったんだ。物々しい強面の男たちが速やかに作業してるから何かと思って、顔触れ的にも警官だから物騒だなと注目してた。成程、二個目の爆弾の仕掛け場所は此処だったんだな」
「それは……犯人もピンポイントでよく狙ったもんだ」

口元に手を当てて状況を述べてくる降谷に、真相を悟って思わず苦笑が漏れた。多分犯人萩原のこととか知らないで米花中央病院選んだんだろうけど、松田の地雷引き当て過ぎだろ。そりゃ瞬殺で暗号も解くわ。

「声かけられる雰囲気じゃないし、俺行くな」
「あ、待った待った」

照明の下に出ないよう気をつけて佇み、そのまま薄暗い階段の影に紛れて消えそうになる降谷の腕を咄嗟に掴んで、シャツの胸ポケットから私用の名刺入れを取り出す。一枚しか入ってないそれに訝しげな目をする男用に持ち歩いてたやつなので、“友との再会”に掛けて良かった。

「ほいこれ占い師名義のメールアドレスだから。捨てアドでも空メールくれれば今週の運勢送る。メマガ形式で」
「…………」

因みに名前は前世で使ってた奴で、あっちじゃ有名だったものでもこっちじゃ誰も知らないから足がつく心配も無い。

「……何だこれ、」
「お前専用のライフライン。だから絶対メールしろよ。使われなかったら勿体ないからな!」

じっとアルファベットの文字列を見詰めている降谷が、何らかの犯罪組織に潜入してるっぽいのは、オーラから分かる。澄んだ正義の色を押し隠すように纏われる物々しさに心配すら浮かぶけど、それを表に出した所でどうしようもないだろうから、俺はいつものようにただ笑うだけ。

「ん、」
「んん?」
「もう覚えたから」
「……じゃあ、待ってるな」

返された白い紙切れをそのままポケットに収納してから、握りしめていた腕を二度ほど叩いてアピールしておく。アドレス変更絶対しないし、マジで降谷からしか届かない窓口なんだからしっかり活用しろよな、って想いを込めて。降谷は年のわりにでかい目をちょっとうろうろさせてから、頷いて、はたと動きを止めた。

「なあ、お前って、どのくらい情報があれば分かる?」
「?」
「……同じトコに居る人が、その……心配で」
「うーん……」

言葉の裏を読んで補足するとして、同じ立場にいる潜入捜査官が無事に仕事を終えられるのかどうか……みたいなことを聞きたいのか?

「俺は生年月日とか使わないしなあ。顔見れば一発だけど」
「実物の方が良いんだよな、写真より」
「うん。あ、送るメマガに相性占いの項目つけとくから、そこで俺のスケジュール把握してよ。タイミング会う時近くをそいつと通りがかってくれれば勝手に見るから」

俺の提案にホッとした顔をする降谷が、その人を大事にしてるのが伝わって来て何となくほっこりした。殺伐としてるだけじゃないなら安心かなって。

「…………頼りにしてる、」

ボソッと呟かれたその言葉に、口角が上がりそうになるのを必死に堪えた。プライド高い降谷にバレたらニヤニヤすんなって殴られそう。誤魔化すようにわしゃわしゃと降谷の髪を掻き混ぜて嫌がられて、睨むような視線には自然な笑顔を心掛ける。溜息一つでぎこちなく笑い返すのは、最近笑ってないからなのか?強張った頬を突いて、漸く普通の表情の変化を見れた俺は安心する。なあ降谷、頼むから伸ばした手を掴むことに怯えないでくれよ。巻き込むんじゃないかって尻込みするな。俺はいつでも、大事な人の助けになりたいのだから本望だ。



***

占い師な彼の名前どうしよっかな〜って思いながら書いて呼ばずに終わってしまったよナナシくん。きっと彼はスコッチさんも助けてくれると信じてる(書かない)専門知識のない職種で原作の情報も足りてない組を書くと全体的にふわふわした話しにならざるを得ない。口癖はぼんやり読んでねです。

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