中編・短編


□一夜の夢と相成りました
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※口淫とかあるので嫌な予感がする人は退避してください


副業が軌道に乗り始めたが故に、三郎と別で忍務に当たることも増えた。勿論抜かりなく下調べをして安全性を確認してから任せたし、いつでもピンチになったら知らせてくれる鳥の子や猫たちがいるので、今まで特にトラブルが起きることも無くここまで来ている。今日も後は帰路につくだけだったので、或る程度気を抜いていたのだけど。

「──ん?」

移動ルートのメインである屋根の上から、路地に蹲る人物を発見した。酔っ払いにも見えるけれど、それだけじゃない具合の悪さが気になって地面へと降り立つ。近付いて分かったけど、私この男の人に心当たりある。以前とある企業の副社長から、社長が犯罪に手を染めていて、自分も脅されて加担している現実から助けて欲しいという依頼があって、潜入して証拠集めを地道にしていた時に出逢った人だ。

「ちょっと失礼します」
「ッ!?」

ヒクッと喉の奥から引き攣った音を出した彼は、私が近付いたことにも気付いていなかったらしい。大分切羽詰まっているのは、触診を振り払いたくても出来なさそうな仕草から直ぐに分かる。潤んだ目元に紅潮した肌、早い脈に汗ばむ身体は力が抜けそうな感覚を必死に留め、只管に己を律していて、我慢強い人だな、と複雑な感心の仕方をしてしまう。

「薬、盛られたんですね」
「…………」

言われなくても自分が充分に分かっているだろうことをわざわざ口に出したのは、睨まれる為では勿論ないのだけれど、まあそこは置いておいて。

「近くに休める所あるので、案内します」

あまり刺激しない位置取りで身体を支えて歩き出すのに、胡乱気な目を向けられる。警戒されても本気で嫌がられていない辺り、多分彼も私が悪い人を摘発した立場の人間だという理解はしているようで、自立すら出来ていない己の様子に苛立ちを感じるのみである。どうやら薬の効き具合にも波があるらしく、止まって身体を折るほどに耐える彼は震えている。もう少し歩きたかったが、そこまで余裕も無さそうなので近場のビルを選択して入る。廃ビル自体に細工はないが、内部のドアを開ければ居心地の良い私達の基地へ早変わりする、言うなれば持ち運びが可能な必要の部屋といった魔法を使用。

「シャワールームは向こうです。薬抜けたら使ってください」

彼をベッドに座らせて、未開封のミネラルウォーターを幾つか寝台の棚に並べておく。ティッシュとゴミ箱も手の届く範囲に置いたので困らない筈。処理するにしても無視して寝るにしても、私が傍に居ない方が良いだろうと立ち上がれば、いつの間にか掴まれていた腕に引き止められて再び腰を折ることになった。

「?、何か他に要りますか?」

激しい呼吸の最中に言葉を紡ぐことは難解そうだが、読唇術を使えば意思はちゃんと伝わる。しかしはくはくと動く口元は特に意味をなす単語を話してはいなかった。

「声出なくても、読み取りますよ」

しゃがみ込んで下から伝えても、沸騰した頭に届いているのは一割にも満たない情報なのかもしれない。これは気絶させて医療忍術で薬を抜いたほうがいいかなあ、と考えを巡らせていると、震える唇がたすけてほしい、と紡いだのが分かった。助けることは別に良いのだけれど、私はエスパーではないのでどう助けてほしいのか正確なところが分からない。意識も朦朧としているだろうし、と覚悟を決めて、額を合わせるように今日彼に何があったのかから覗いてみることにする。

「(……ああ、公安警察の潜入捜査官なのか。潜入中の組織から指令が届いて、情報集めしてる最中に薬を盛られて、襲われ掛けたのを即効性睡眠薬でかわして何とかもぎ取った情報ごと逃げて来たと)」

しかもこの薬、データを見るに被験者の自慰行為では治まらない類の物とか……。なんて悪趣味な……いや加害者に都合の良い薬だろうか。

「とりあえず水、飲みましょう?」

震える手に差し出すも安定はしないし、口元に運ぶにもそれどころじゃないのか拒否されるので、仕方がないから呷るように飲んでゆっくり唇を合わせる。氷の方がきっと気持ち良いだろうな、と思うくらい彼の口内は熱かった。声が出ない原因は薬を混ぜられた高濃度のアルコールが喉を焼いたせいらしく、その処置も含めてどんどん次を運びたいのに舌を吸われるように絡められるので苦労した。半分くらい飲めたし、外側から少しは“手当て”も出来たからいいか。

「じゃあ触りますね、」

猫を撫でる時のように、掌に何も危害を加えるものは持っていないことを彼の目の前で証明してから、スラックスを寛げる。ボクサータイプの下着をずらせば、張り詰めた男性器が飛び出して空中でヒクヒクと震えた。十代の野性味溢れる男子の反応に近いそれに、見た目ほど若くないだろう彼が混乱するのも頷ける。助けてと言った割にきつく抱き締められて、歯を食いしばっているのがまた元々の理性の強さを表わしているようで心底同情である。

「!!」

先端を撫でるように包み込んで、あちこち力加減を調節して弄りながら反応を見る。ビクリと震える体もそうだけど、それ以上に掌の中の熱がしとどに濡れていくので安心して握り込んだ。達したのは速かったけれど、萎えることなく屹立している姿に休めることなく手を動かす。段々と彼の身体からは力が抜けて、今は小さく空気を漏らして喘ぐのみである。何回絶頂を迎えたか分らない頃に、鼻を啜る音が聞こえて顔を上げる。真っ赤に染まった顔で静かな涙を流す彼から、意識を奪った方が幸せだったのか、考えてしまう。

「大丈夫ですよ」

思わず背中を支えていた手を引き抜いて、彼の頭を撫でていた。ゆらゆらと動く瞳は私の姿をきちんと捉えられてすらいないけれど、耳孔を通って私の声が届くように、そっと顔を寄せる。

「朝には随分落ち着きますから。それまで頑張りましょう?」

良い子良い子をするように手を動かしていると、震えは落ち着いたらしい彼の手がもそりと私の服を探り出す。武器を調べているのかと勘繰ってみたけれど、どちらかと言えば抱きたいアピールだろうなあと直感しているので内心唸る。……うーん最終手段にしておきたいから、やっぱりもうちょっと粘ろう。

「咥えますけど、嫌だったら言ってくださいネ」

ベッドから自分だけ腰を下ろして上手く彼の腕から抜け出すと、アイスキャンディーを舐めるようにして彼のモノを口に含んだ。その刺激に思わず私の肩に手をやった彼はそれでも力加減を間違えることはなく、どれだけ乱れても私を不用意に傷付けはしなかった辺りが出来たひとだ。

「(勝手に好感度上げても仕方ないか……うーん、三郎はやく来てくれないかなあ)」

唯一無二の相棒をしっかり巻き込む方向で考えているあたり、私も図太くなったものである。



***

そんな感じの尻切れトンボ。以降は途中参加な三郎さんに掘られるあむあむとかごにょごにょとか云々かんぬんなんですけど力尽きたというか流石に其処まで欲望のまま突っ走って書き切れなかった。翌朝は綺麗なベッドと清潔なだけで何も残されていない部屋で一人彼だけが目を覚まして、次の日以降にこの場所に行っても埃の溜まった廃ビルの一室なだけっていう夢のような一幕になるけど、これから先も二人とはちょいちょいすれ違う程度に遭遇するからもやもやする安室さん。

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