中編・短編


□安寧秩序を尊ぶ我等
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「ある……!」

 街中を歩いていて、腕を捕まれる経験はそうそう無いと思う。ともすれば不審者との遭遇に怯えて良い場面だったが、顔を見なくとも心当たりはあったので一緒にいた友達には「知り合いだからだいじょぶ。また明日学校でな〜〜」と朗らかに言って別れを告げた。目を白黒させている彼は随分と混乱しているようだったので、すっかり心の準備が出来ていた分余裕をもって笑う。

「久しぶり、ケンジくん。時間あったらお茶でもしない?」
「っ、あ、ああ……」

 ぼんやり隣を歩き出した彼は、俺を上から下まで眺めるのに忙しいようで足取りが不安すぎた。捕まれていた手を取って距離を縮めてから先導するも、文句は出ない。そのうちにビジネスにも重宝するような地下カフェにやって来て、リッチなアイスココアを頼む。しどろもどろながらも珈琲を注文したケンジくんと、届いたドリンクを一口飲んでから本題に入った。

「記憶、最初からあった訳じゃなさそうだね?」
「お、おう……ついさっき、思い出して……」
「ふーん。そーゆーのも個体差あんのかね。陸奥が幼馴染だけど、アイツは産まれた時から覚えてたらしいし」
「えっ……! ああ……嘘だろ……、」

 まだまだ混乱が収まらないらしいケンジくんは目の前で頭を抱えながらブツブツ呟いている。「幼馴染とか……初期刀クオリティ過ぎるだろ……」「それな」「アイツ、まさか記憶あったのか……?」「ん、既に誰かと会ってる?」返答は無くてもいいやと思いつつ相槌を打っていると、ゆらゆら揺れる視線と搗ち合う。正直記憶がある場合、一番混乱するのはコイツだろうなとは思っていたので今更その視線に怯んだりはしない。出会えなかった十数年で、もう過去の性別とは決別したのだ。

「おとこ……なんだよな……?」
「うん」

 目覚めて、主と抱き締めてくれる陸奥が最初から居たから不安は無かった。主は主という目で、同性の友人として幼少期を過ごせたのでむしろめちゃくちゃ楽しかったし楽だった。何より重くだるく辛い生理がないのが幸せすぎた。まあケンジくんと付き合ってた過去を思えば複雑でないことはないが、コイツはおっぱい党だった気がするので前世の感情を引き摺ることはないだろ。

「俺今中学生してるけど、ケンジくんは?」
「ちゅうがくせい……俺は警察官です……つーか、五人揃って警察学校の同期です……」
「えっ五人って……えー! まじでか! いいなー。あの頃から仲良かったもんな〜〜」

 ホクホクしつつ俺は同級生に大包平がいることを報告した。古備前組は一緒に住んでて微笑ましいんだ。鶯丸は俺の刀剣じゃないけど。

「松田とは配属先も一緒なんだ……機動隊」
「へー! 他三人は?」
「伊達……あー航、は捜査一課だな。後の二人は最近連絡返してくれなくて、所属不明だ」
「ワタルくんの名字伊達なんだ? 格好いいね?」
「……ヒロミツなんか名前そのままだぞ。漢字は景色のケイに光」
「えっそれはイッチーが凄いのかなんなのか……字面だけなら長船派じゃん」

 笑いながら報告案件だなと脳内メモに書き留めた。会ったのが夕方近かったので中学生の身分を考慮して本日はお開きとなる。次回の約束用に交換した連絡先は、雑談と近況報告で埋まっていく。マツダくんの話題に詳しくなりすぎてやべえと返信したら次回松田も誘うか?と聞かれたけど主でもない俺がしーくんより先に会っていいのだろうかと悩んだ。まあそれも無駄な心配だったんだけど。

「わーサンちゃん男の子になってる〜〜」
「えっ、しーくんショタいな?!」

 研二くんが入院したと聞いたのでお見舞いに来たところ前世の同僚に再会した。小学生しーくんはお母さんが看護師で忘れ物を届けた帰りらしい。病室に誘うと相変わらずのノリの良さで「行く行く〜〜」と言ってくれたのでめちゃくちゃ笑顔になった。つーかしーくんマジで可愛い。俺は高知出身で今はきっと海外を飛び回っている陸奥が五つ上の幼馴染だと報告する。

「やっぱ初期刀は近くに産まれなおすように設定でもされてんのかね?? うちの歌仙は叔父さんなのよ」
「まじかー! しーくん可愛がられてそう」
「いうても長年連れ添った元主だからね? 扱いはそんなに変わんないもんよ」
「確かに。クラスメイト大包平くんあんまり変化ない」
「大包平は良いやつ。俺は愛知からの転校生だけど、伽羅が居たから助かった」
「小学生伽羅ちゃん見た過ぎる……」
「今度一緒に遊ぼうぜ!」

 キラキラの笑顔を見せられてときめいた俺ですどうも。男二人でわちゃわちゃしながら個室の扉を開けたら、「よーケンジ!」と俺より先にしーくんが入る辺りマイペース過ぎて笑う。研二くんはベッドの上で目を丸くしてたから更に面白い。あまり笑ってる場合ではないが。

「えっ、えっ?! 松田の!」
「よーケンジ。マツダのしーくんだぞ」
「しーくん何キャラなのホント」
「ふてぶてしいショタ現れた……」

 ついさっき、ガチで偶然居合わせたのだと説明すると、包帯まみれの研二くんは「運命的だね……」と呟いた。暫く三人で話してたけど、長居する予定じゃなかったしーくんの飲み物を買いに俺は一旦席を外した。病院とはいえ、小学生を一人にするのは怖い。何が良いか希望を聞いたとき「何でもいーけど珍しいやつ!」と輝いた瞳を細めるショタを守らねば……ってめちゃくちゃ思った。戻ってきたら修羅場ってたけど、しーくんに害無いならいっか。


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