多重トリップ過去編


□レイブンクローの優等生
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時は移ろい、只今組分けの儀式を待っている最中である。飛びすぎだと思う人も居るかもしれないけど、間のことを話したって読書・勉強・読書しかないから多分つまらないと思う。折角の列車でも読書ばかりだったので、まともな友人作りなぞしていないのである。あ、でも、席を求めてやってきた男の子は無口な子で、読書中の私が心地いいのかずっとコンパートメントに居てくれた。同じく新入生な彼は、アルタイル・クロードくんと言って、アルくんと呼ばせてもらうことにしている。最初名前を聞いた時には、“アルタイル”といい“クロ”と良い、ブラック家を連想してしまったのだが特に繋がりはないようである。いや、別に確かめた訳でも何でもないんだけど。

「なぁ、蛍はどの寮に行きたい?」

そしてアルくんとは打って変わって人懐っこいこの男の子は、アルくんの幼なじみらしいロラン・ウィルソンくんである。ウィルくんとも呼びたがったが、本人の希望でロランと呼び捨てにすることになった。アルくんは彼から逃れて私のコンパートメントにやってきたのだが、結局城まで行くボートでロランに捕まった。私との交流は一時間にもならないのに、随分とじゃれてくる子である。(こう思うと、私ちゃんと友達作り出来てたんだろーか。果てしなく受け身だけど)

「私はそうだな、レイブンクローが性に合ってるとは思うけど、ハッフルパフも誘ってくれた人が居るから捨てがたいなあ、と思う」

まあ主軸にはなるべく関わらずに勉強に専念したいから、まずグリフィンドールとスリザリンには組分けされたくない。勇敢でもないし、一つの物事をやり遂げる狡猾さもない私にはまず入寮資格がないとは思うが。

「へーそうなんだ! オレはまあ、誠実さくらいしか売りがないからハッフルパフかな!」
「ロラン……うるさい、ちょっとは声落とせ」
「うあ、アル、すまん」

乗り出したロランの声が耳元で響いたのだろう、アルくんが顔をしかめて注意する。素直にロランが言うことを聞くことからしても、この二人は仲がいいんだなあと思うけど。そうこうしているうちにアルくんが呼ばれて、帽子の元へと行く。組分けられた寮は、スリザリンだった。

「おお、アル、スリザリンだ」
「そうだねえ。緑のネクタイ、似合いそう」
「……感想、それだけ?」
「え、うん」
「なんか、アルが蛍のこと気に入った理由、分かった気がする」
「え、私、気に入られてる?」
「アルは気に入った奴じゃねえと側にいねーよ」
「それもそうか」

ロランとちょっと嬉しい世間話をしていたら、名前を呼ばれた。Wで大分遅いロランを残して、私も組分け帽子を被った。

『おお! これはまた、特異な方が入学したものだ!』

被った途端に興奮したような声がして、何となくオリバンダーさんを思い出した。そういえば組分け帽子は、開心術のようなものを使うんだっけか。

「ええと、私がどうしてきたか、分かるんですか?」
『いや、細部までは見えん。しかし、他の皆とは違うことは分かる。物凄い知識量、知識欲だ!』

嬉しそうな帽子に、つられて私も笑みが浮かぶ。

「私、色んな事を沢山学びたいんです」
『ふむ、学ぶ意欲の強い貴女の為にレイブンクロー寮はあるようなものだな!』
「でも、ハッフルパフも素敵な寮なので悩んでいるんです」
『何? フム、確かに君は誠実で勤勉だが……やはり君の才能をのばすためには、此方だろう。レイブンクロー!!』

最終的に落ち着いた所に、妥当かなという気が起こる。わあ!っと歓声をくれるテーブルの隣にセドリックを見つけて、肩をすくめる彼に苦笑を送った。残念そうではあるけれど、ちゃんと拍手をくれるあたり、やっぱり彼は紳士なのだと思って笑ってしまったのだが。

「東洋人なんて珍しいわね! 私はティナ・オーレリア。ティナって呼んで!」
「蛍・日比野だよ、宜しく、ティナ」

早速馴染みの無い東洋の話を聞こうとするティナを見ながら、多分同じ気質が多いだろうレイブンクローでは上手くやれるだろうと確信して笑みが浮かぶ。皆がそれぞれ勉学に励む素敵な寮だと思うから。

「ジークリンデ・キリク!」
「レイブンクロー!!」

またしても人が増えたレイブンクローのテーブルが沸き立ち、それまでティナと話していた顔を上げる。

「どうしたの? 蛍」
「いや、ジークリンデって……ドイツ系だなと思って」

眞魔国語がドイツ語に近かったのもあって、前よりもっとドイツ語に反応するようになってしまったようだ。キリクくんは席を探しあぐねているようだったので、手を挙げて隣が空いているとアピールしてみた。

「ありがとう。知り合いがいないから、助かったよ」
「ううん、困った時はお互い様っていうじゃない」

ゆっくりとしたキリクくんの喋りに合わせて応えると、ティナがずいと顔を近付けてキリクくんに迫っていた。

「ね! キリクはドイツ系?」
「え。う、うん」
「ティナ、まずは自己紹介からするのが礼儀じゃないの? ごめんね、キリクくん。私は蛍・日比野。それでこっちの子が、ティナ・オーレリアだよ」
「親切にありがとう、蛍」

緩く笑うキリクくんは可愛いけど、どことなくちぃくんと同じ匂いがする気がする。まあ、初対面同然なのだし内面なんてまだ分からないけど。

「それで、ティナは何で僕がドイツ系かどうかを聞いたの?」
「蛍がね、キリクのファミリーネームを聞いて言ってたから、確かめてみたの」
「蛍が?」

キョトンと目を向けるキリクは普通に可愛らしかったので、中身は気にせずに笑って頷いてみた。

「え、蛍って、ひょっとしてドイツ語喋れる?」
「喋れるよー多分英語と変わらないくらいには喋れる(たまに眞魔国語と混じるかもしれないけど)」
「わ! 嬉しいなー僕、まだ英語に慣れてなくって。ドイツ語で会話出来る子がいるなんて思ってなかった」

返事をドイツ語で返したら、英語とは比べものにならない流暢さでキリクくんが喋り出す。嬉しいし興奮してるのは分かるけど、全くドイツ語話せないティナが置いてけぼりにされてるよ。

「あはは、キリクくん待った! 英語習得中は、なるべく英語で話そう? あ、でも、内緒話ならドイツ語ね」
「うん、分かったよ。ドイツ語ばっかり話してたら上達するものもしないからね。そうだ蛍、僕のことはキリクって呼んでよ」
「え、うん、分かった」
「ねー二人とも! 私にも分かるように会話してよー!」

話が纏まった所で、ティナが乱入してきた。ほっとく訳もつもりもなかったので、ちゃんと会話を英語に戻す。

「何はともあれ、これから宜しくね! ティナ、キリク」
「うん!」
「此方こそ、宜しく」

ちゃんとお友達を作った所で、寮に帰ることとなる。あ、ロランは宣言通りハッフルパフに組分けされてたよ。早くもあの人柄で沢山友達を作っているようでした。しかし、ダイアゴン横丁以来の大人数に囲まれたからか、すっごい疲れた。部屋に残してた黒猫のアスが心配そうにしてくれてたけど、話はしないで抱きしめて寝ることに留めた。人が居るところで会話しようとしないこの子は、本当に賢い子だ。だからこそアスの名前は、知的な装いの花言葉を持つアガパンサスの最初と最後の言葉を取ったんだ。でもそれ以外に、私を戯言界で目一杯鍛えてくれた軋騎さんの零崎名“愚神礼賛(シームレスバイアス)”からも貰っていたりする。双識さんや曲識さんにしか許されていなかった呼び名だけど、異世界に来てしまった今、せめて一欠片でも呼ばせて欲しいとこの名前にしたのである。寂しさはあまり感じないようにしているが、微睡み重くなる瞼の先でアスが優しく『お休み』と言った気がしたことが、泣きそうになるくらい嬉しかった。



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