多重トリップ過去編


□温もりと夢の布石
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長期休暇に入ってからも、私がやることと言ったら勿論勉強尽くしなのであった。ハーマイオニーからの手紙も勉強で忙しくしていると書いてあったし、やはり彼女と私は似た者同士だ、なんてアスと笑った。教科書リストが届いたら早々に買い物に行こうと思っていたのもあり、私の予定が立つのは早かった。相も変わらず不便な日本からの交通はポートキーで、主人公組とは日付をずらしてティナとキリクと平和に学用品を揃えた。因みにあんなふざけたギルデロイ・ロックハートの本には何も期待していないので、闇の魔術に対する防衛術に関しては別の本も大量購入した。寮で同室のティナは勿論、レイブンクローの談話室で危なげな本を読んでいることを知っているキリクも何も言わないでいてくれたのが有り難かった。

「蛍、久しぶりだな」

ホグワーツ特急に去年と同じくらい早く来た私は、去年と同じコンパートメントに座り去年と同じく本を読みふけっていた。かけられた声に顔をあげると、案の定アルくんが私の真正面に腰を下ろすところだった。

「久しぶりアルくん。ロランは一緒じゃないの?」
「撒いてきた。特急は静かに過ごしたい」

相変わらずの答えに笑ってから、私も読書に集中したいので杖を取り出した。

「蛍?」
「目眩ましの呪文かけておくね。壁にしか見えないヤツ」

ここは一番端っこのコンパートメントなので、よっぽど見つけようと思わない限り見つからないだろう。そう思って、発車してからも暫くアルくんと二人きりの静かな空間に身を投じていたのだが。

「わ、やっと見つけた。流石蛍の呪文だね、四回は通り過ぎたよ」
「キリク」

見破ってドアを開けたのはキリクである。身構えるアルくんに、キリクは笑いながら私のかけた目眩まし呪文をかけ直していた。

「大丈夫、僕一人だよ。ロランはティナと一緒にコンパートメントにいて、最早探すの諦めてるから」

キリクの言葉にホッとしたように息を吐いて座り直したアルくんに笑ってしまう。アルくんには悪いけど、実はアルくんとロランのやりとりを見ているのは結構楽しいのだ。

「それで、キリクは何で来たんだ? 用がなきゃお前五回も列車の中探し歩いたりしないだろ」
「アルは鋭いね。そうだよ、でも用があるのは蛍にだ」
「私?」

隣に座ったキリクに向き直るように、私は読んでいた本にしおりを挟んで閉じた。

「実はクィディッチのことなんだけど……僕と一緒にチェイサーやらない?」
「へ?」
「……キリク、急に何言ってるんだ?」

事態を飲み込めない私の代わりに、アルくんが事情を聞き出してくれる。

「アルはスリザリンだから知らないと思うけど、蛍って箒の扱いも凄く巧いんだ。多分身体能力が高いからだと思うんだけど」
「(そりゃあ、行く先々で色んなのに鍛えられてますからね)」
「去年、レイブンクローはクィディッチの成績さえ良ければ寮杯取取れるのになあってずっと思ってたんだ。シーカーはまあいいとして、チェイサーが頼りない。もっと箒の扱いに長けた人物で、ちゃんとチーム内でコミュニケーションを取れないといけないと思う」

キリクがクィディッチに随分詳しいことが意外だったが、割と負けず嫌いな彼は実は寮杯に燃えていたのだろうと勝手に納得しておいた。

「それで、蛍が巧いのもレイブンクローのチェイサーが頼り無いのも分かったけど……何でお前と蛍なんだ?」

うまく情報を整理してくアルくんに感謝しつつ、続く言葉を待つようにキリクを見上げる。キリクはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑みを浮かべて、口を開いた。

「唯一上手いチェイサーは一つ上のロッド・ブリュンヒルデ先輩なんだ。蛍、この名前を聞いて感じることは?」
「あ──ドイツ系だって言いたいのね?」
「そう! ちゃんと確認も取ったから大丈夫だよ。試合中の作戦なら、独語で出来るからチェイサーのチームワークもバッチリだと思う」

いつになくキラキラと目を輝かせるキリクに笑ってしまう。キリクの印象はアルくんよりは冷めてなかったが、あんまり物事に熱中するタイプにも見えなかったから、なんだか喜ばしく思った。

「分かったわ。取り敢えず今度選抜試験に参加すればいいのね」
「うん! 蛍なら絶対大丈夫だからもう箒を買っておいてもいいと思うけどね。蛍に合う箒も見つけておいたから」

大袈裟かつ気が早いキリクに苦笑しながら、ホグワーツ特急の揺れを感じていた。勉強も一年目のアレで首席が取れたので、二年からはもっと体を動かしたいなあ、と思っていたところだった。キリクはタイミングが絶妙だったのである。そんな彼は今隣で上機嫌に本を読んでいたし、アルくんは静かに寝息をたてている。私はふと顔をあげた時に目に入った空飛ぶ青い車を見ながら、今年もハリーは大変だなあ、と他人事のように呑気に思ったのだった。



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