多重トリップ過去編


□異端を包み込む優しさで
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あれからは不思議な夢に心を乱されることもなく過ごしてきた日常に、またしても原作筋が行き当たった。ハリーがクィディッチの試合で腕を骨折し、ロックハートに文字通り骨抜きにされたのである。自寮のクィディッチメンバーになったにも関わらず、試合を見に行くよりも普段よりもっと静かな図書館を選んでいた私に情報が入ったのは、大分後だったけど。

「そっか、それで最近ハーマイオニーの姿を見かけなかったのね」

多分ハーマイオニーはポリジュース薬に取り掛かって居るはずだ。そして確かハリーの腕が直ったら、スネイプ先生の薬棚から二角獣の角と毒ツルヘビの皮を盗むのだ。騒ぎを起こされる魔法薬学の授業はスリザリンと合同だ、アルくんなら膨れ薬を被るなんてことはないだろうけど、アルくんと教授の心の平穏の為にも何とかしたい所である。

「うーん、大分前にポリジュース薬を作った時に、余った材料があった筈……」

一番初めにダイアゴン横丁で買ったあの無限トランクは今でも私の良き相棒で、勉強の為に作った魔法薬とか材料とか本とか全て詰め込まれてある。物が多すぎて、如何せん取り出すときが大変ではあるんだけど。

「あ、良かった。ちゃんとあった」

きちんとしまわれていたその二つをローブの下に忍ばせて、アスを連れ立って嘆きのマートルのトイレまで急いだ。ドアを開けてみると息を飲む音と、物凄い緊張感が流れてきた。気配は三人分あるので、どうやらハリーももう無事に退院したらしい。

「ハーマイオニー、いる?」
「な、何かしら。蛍、珍しいわね、あなたがこのトイレに寄るなんて」
「アスが、あなたが此処にいるって教えてくれたから。それより、私前に作った魔法薬の材料で余ってるものがあるんだけど、良かったら引き取ってくれない?」

何でもない風に声をかけると、ハーマイオニーが息を飲む音が聞こえた。次いで、何かを相談するような音も。気持ちは分かるので気長に待った。

「ね、ねえ蛍、その材料の中に、もしかして二角獣の角と、毒ツルヘビの皮なんてない?」
「え。あるけど、その二つだけでいいの?」

とか首を傾げて言っても、彼女には見えないし元々持ってきてるのはその二つだけなのだが。

「ええ、その二つがあると、凄く助かるわ」
「分かった。こんな所で悪かったわね。材料はアスに渡して扉の前に置いておくから」

言葉通りに二つを置き、アスにその材料の前に座って貰う。片時も離れないと約束したので、トイレは出てもドアの前で気配を薄くするだけに留めて、アスが用事を終えて出て来るのを待つことにした。

「わ、ホントに置いてあるよ」
「蛍、よくこんなの持ってたね」
「あら、蛍なら不思議じゃないわ。あの子、いつでも上級魔法薬を片っ端から作ってるようなものだもの」

ハーマイオニーの認識は間違っちゃいないけど、なんか彼女に言われると変な心地がした。別にいいんだけどね。

「でもコレでスネイプの薬棚から盗まなくて良くなったな」
「本当、命を救われたよ」

そんな大袈裟な、とも思ったけど、特に怪しまれることもなく目的は達成された訳なので結果オーライである。戻ってきたアスを抱き上げて、上機嫌で私は寮に帰っていった。



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