多重トリップ過去編
□日本式バレンタイン
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いくら色んな噂がたてども、私が日常を過ごすメンバーに変わりはないので、周りを気にしなければ至って通常の日々である。ハリーに声をかけることは増えたけれど、彼も何だかんだと楽しみを見つけてうまくやっているようだったし心配はなさそうだ。クリスマス休暇は相も変わらず短いので、またしてもホグワーツに残ろうと考えていたのだが、思わぬ出来事があった。いや、私が思ってなかっただけで、またしても随分心配をかけていたことなんだけど。
「だからね、蛍。日本が遠いのは分かってるけど、ならせめて漏れ鍋に泊まるとか……ホグワーツに残るのはオススメできないと思うよ」
セドリックはオープンになったからなのか、割と頻繁に私の所に顔を出すようになった。今ではセドリックファンの女の子たちの冷たかった視線も、呆れたような生暖かいものに変わっていた。
「うーん、心配かけてるのは分かってるけど……」
長く漏れ鍋に泊まる資金があるのなら、私は本を沢山買うだろうと思う。休暇に危険が何もないことは知っているし、残れるなら残ろうと思っていたのだが。
「──分かった。じゃあ、僕の家においで」
「……え? ごめんなさい、セドリック、もう一度言ってくれる?」
「クリスマス休暇は、僕の家で過ごすといいよ」
冗談ならいいと思って聞き返したのに、もうセドリックは恥もてらいもなく、にっこりとした笑顔で告げるものだから、頭がクラクラしてきた。これは日本人との感性の差で片付けてしまってもいいものだろうか。
「じゃあ早速両親に手紙を書くね」
そのまま鮮やかに踵を返そうとするセドリックのローブを、力無く掴む。一応止まってくれたので、一つ溜め息をこぼしてから、私は口を開いた。
「分かったわ……休暇は、ティナの家で過ごすから」
「……そう?」
ちょっと残念そうな顔をしたことなんて、知らないんだから。
「あはははは! ディゴリー先輩、流石だね…!」
「笑い事じゃないわよ、ティナ」
そしてクリスマス休暇に入り、セドリックに約束した以上ティナの所に居なかったらどんなことになるか分からなかったので、ティナの家に泊めて貰っている。元々誘って貰ってはいたのだが、折角の家族の団欒にお邪魔するのも気が引けていた。まあセドリックの家にお邪魔するよりははるかにマシだと思うのでこちらにお邪魔した訳なんだけど。
「そっか、それで家に来てくれたんだね。ふふ、嬉しいなあ、ディゴリー先輩に感謝しなくちゃ」
悪戯に笑うティナは可愛らしいけど、言っている台詞はいただけないと思う。溜め息混じりにそれに答えると、嬉々としてティナが続ける。
「で、実際のとこ、どうなのさ!」
「どう、って?」
「ディゴリー先輩と! 返事、まだしてないんでしょう?」
「……うん、まあ」
正直言って、よく分からないのだ。ロランやキリクやアルくんも大事だし、その三人とセドリックに対して感じる思いが少し違うのは、先輩だからだと思ってたし……
「私さ、今まで恋愛って二の次だったから……良く分からなくて」
「うーん、まあ、そんな感じはするよね」
というかトリップしてからはまず世界に馴染むのが精一杯でそんなことにかまけてる暇がなかったのだが。
「むしろ12歳って恋愛対象なんだ、ってことに驚いてて」
そりゃあ後輩には小学生や中学生でお付き合い、なんてことをしていた子達もいたけれど、みんな少女漫画をなぞるような恋愛ばかりで時が経てば自然消滅するようなものだった。けど、セドリックのあの目は違ったし、ただでさえ剣道に打ち込むあの頃の12歳の私は男子に恐れられこそすれ、色恋を含んだ好意を向けられたことがないんだから、戸惑うのは当たり前だと思う。だけど、悶々とする私にティナは「そうかな?」と軽く言葉を紡いだ。
「蛍って、すっごく大人っぽいし、ディゴリー先輩が好きになるのも分かるけど」
「え」
「偶に抜けてる所も、男心をくすぐるっていうか」
ティナの言葉に、しどろもどろになる気持ちを抑えられない。結局、分かったことはあれだ、向こうの人は、発育が早い。
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