多重トリップ過去編


□閑話
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レイブンクローのかぐや姫(二年)


「おい、聞いたか? 片割れ」
「ああ、確かに聞いたよ! 相棒」
『蛍・日比野がレイブンクローのチェイサーになるなんて!』

「彼女ってアレだろ? 去年学年首位を取ったレイブンクローの優等生」
「ああジョージ。レイブンクローの中だけじゃなく各寮で入学直後にファンクラブが出来た人気者だ!」
「確かに東洋人、特に日本人はとても珍しいが──」
「余りある才能! 他の生徒にはない落ち着き──そしてなにより」
『あのスリザリン贔屓のセブルス・スネイプ教授のお気に入り!』

声を揃えて言った後で、それでも二人は顔を見合わせて腑に落ちないような顔をしていた。

「信じられるか? 相棒、あのスネイプが顔を緩めて話す姿を」
「信じられない──信じられないが、目撃証言は確かにある」

蛍がセブルス・スネイプと仲良くなったのには、打算も計算も存在していなかった。誰もが怖がる薬学教授にも、他の先生達と同じように接し、質問をするため繰り返し教授のもとに通っていただけだ。しかしそれは誰の目にも、勿論セブルスの目にも他とは異にして映るだろう。それが、学術的に高尚な話し合いが出来る相手と分かれば仲良くなることは必然とも言える至極当たり前なことだった、それだけである。

「それに、これは先生方の間でまことしやかに囁かれている噂だが──何でも彼女は、次々と各界に素晴らしい論文を発表しているらしい」
「ああ、俺もハッフルパフの友人から、セドリック・ディゴリーの証言を仕入れた」

セドリック・ディゴリーは双子の同学年で去年学年首位を取った秀才だが、その彼ですらも蛍・日比野の取り組んでいた研究内容には驚かされるらしい。二人はニヤリと口角を上げた。

「──これは、お近付きにはなれなくとも、何か彼女を指す呼称を我々が考えるべきではないか?」
「それはいい考えだ、フレッド!」

良い提案にハイタッチを交わした二人だが、情報だけでは図れない部分もある。きちんと肉眼で彼女を確認してからぴったりの呼び名を考えなくては、と思った二人は、会議を彼女のクィディッチ初試合まで待つことにした。そして待ちに待ったその初試合を、見てきたのだが。

「まさか彼処までの才能を持っていたとは──」
「セドリック・ディゴリーも秀才でありながらシーカーという大役をこなしているが──」
『まさに天は二物を与えた!』

試合中に見せられた彼女の身体能力の高さ、箒を扱う巧みさに、二人は目を奪われっぱなしだった。親友で解説者のリー・ジョーダンも、何時もより熱くなっているようだったし、普通に歓声を上げているシーンさえあった。

「人気も更に拍車をかけて高くなるだろうな」
「だけどジョージ、彼女の周りには常に猫や同じチェイサーのキリク・ジークリンデ、スリザリン生で此方も人気の高いアルタイル・クロードがいるぞ」
『まさに従者に守られる姫!』
「お前ら何やってるんだ?」
『リー!』

此処はグリフィンドールの談話室だったが、双子が顔を突き合わせて何やらひそひそとたくらんでいる時は、基本的に人は寄ってこない。寄ってくるのは、悪友のリーくらいだ。

「レイブンクローの深層の姫がお目見えしたので」
「恐れ多くも呼び名を考えさせて戴いているところだ」
「……深層の姫ってもしかして蛍のことか?」
「! リー! 恐れ多くも姫を呼び捨てにするとは!」
「いつの間にお近付きになったんだ! さあ吐け!」
「いつの間にって、たった今だよ。試合後インタビューに行ったら“蛍でいいですよ”って」
「なんとお優しい!」
「天使のようだ!」
『まさしく姫!』

リー・ジョーダンはミーハーな女子のように騒ぐ2人に呆れたような視線を向けた。

「……その蛍は二人のこと知ってるみたいだったぞ」
「! なんと!」
「恐れ多い!」
「まあロンの兄貴で、何かと話題になる人達って認識みたいだけど」
「あのロニー坊や、まさか姫と接点があるとは……」
「多分ハーマイオニーと仲が良いからハリーとも関わるようになったんだろう。ロニー坊やはおまけだ」
「お前ら……仮にも弟に酷いヤツらだな」

自然にロンに毒を吐く双子だが、彼らにも言い分はある。

「だって僕らは話したことないのに!」
「ロニー坊やは話したことあるなんて!」
「はいはい、分かった分かった」

リーは慣れたように二人を宥める。端から見たら完全に保護者である。双子もノリでやっているだけなので、テンションを通常に戻した。

「そういえばリー、レイブンクローのチェイサー達が喋ってたのってなんだったんだ? 英語じゃないよな」
「ああ、試合後聞いたらドイツ語だって。蛍を抜いた二人がドイツ系だから、試合中の作戦はドイツ語でやることにしたんだとさ」
「ってことは姫は、ドイツ語もペラペラってことだな」
『ますます素晴らしいお方だ』

深く頷く双子は、心底感心した様子だ。

「これはより輝かしい名を考えなくては」
「……お前らが姫、姫って言ってるのは呼び名にならんのか?」
「ただの姫では姫に申し訳ないだろう!」
「美しく素晴らしい最高の呼称をつけさせて戴かねば!」

リーは再び疲れたように片手を振った。

「あー分かった分かった。じゃあ、日本の姫の名前でも洗ってみりゃーいいんじゃねえか?」
「日本の姫?」
「なるほど、姫は日本人であらせられるからな」
「極東の姫……我々には手の届かない方」
「輝かしいお姿は皆を魅了し、けれど決して易くは近付けない……」
「いや、確かにガードはいるが蛍自体は付き合いやすい良い子だと思うが」
『リーは黙って』
「はい(理不尽……)」

リーは胸の内に口には出せない何かを抱えつつ、双子の結論を待った。

「そうか! 分かったぞ相棒!」
「ああ! 姫にぴったりなのは」
『月の姫、かぐや姫だ!』
「……それって、竹取物語とかいうやつの姫だっけ?」
「そう! 確かニホン最古の作り物語だ!」
「美しいかぐや姫は地上の人間からの求愛には応えないのだ!」

決まった決まったと楽しげに騒ぐ双子に対して、リーは言えなかった。

「(……いや、蛍は彼処まで男を寄せ付けてない訳でもないし、無理難題を押し付けたりもしないと思うんだが)」

きっと、横暴にも声を揃えて『リーは黙って!』と言われること間違いなしの意見は、とても。



↓後日↓

(聞いたかジョージ?! 姫がセドリック・ディゴリーと付き合いだしたらしい!)
(我等が深層の姫が! 地上の人間になど!)
(お前ら、いい加減悪ふざけはヤメロ)



***
双子は悪意ない、純粋な夢主のファン。リーはただの良い人。
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