多重トリップ過去編


□育成計画に伴う話し合い
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第一回のホグズミードをセドリックはずっと心待ちにしていたようだったけど、新しくクィディッチのキャプテンになったのもあり、私の見えないところでとても悩んでいたので「初試合楽しみにしてるから」と言って見送ってもらうことにした。セドリックは何度もホグズミードに行っているのだろうし、私は好きな人と居られるなら何処でも良いから、と。ティナもロランも「泣ける話だ…!」と感動していたので、ルーピン先生に会いに行くつもりがあったことは黙っておいた。

『ホント抜け目ないっていうか、上手いよな、蛍は』
「あはは」

そうじゃなきゃ多分異世界トリップなんて出来てないと思う。どっかでボロ出して、大変なことになっていたかもしれない。ピーター基スキャバーズの指が欠けている写真を撮影してきたのも寝ていたことを確かめてからやったし、今日に間に合わせてきちんと現像したし、ホント自分でもイイ性格になったって言うか、よく成長したものだと思う。

「ルーピン先生? 日比野です。失礼してもいいですか?」

コンコンとノックすると、ルーピン先生が顔を出し、私だと分かると表情を緩めた。

「や、君か。論文を読んでから、ずっと会いたいと思っていたんだよ」
「ええ? 本当ですか?」

私が手を出して発表された論文は本当に様々で、その中に人狼薬の毒性軽減を扱ったものもある。多分その論文を読んでくれたのだと思うのだが、当たり前に論文名が先生の口から出ることはなかった。

「私も、河童の授業が面白くて、つい感想を言いに来てしまいました。実家の倉庫にある資料から想像していたのとは少し違ったので興味深かったです」
「そうか、君は日本の出身だったね」

ルーピン先生はしきりに頷いてから、口を開く。

「──とすると、あのボガートも、日本の?」
「ふふ、あの授業の後皆から聞かれました。先生も驚かれてましたものね」

ルーピン先生は私に表情を見られていたことに驚いたようだが、やがて優しく笑った。

「気付かれてしまっていたか」
「はい、あれはギャラドスって言うんですけど……そうですね、日本生まれで水辺に生息しています」

嘘は言ってないぞ、と思いつつ告げると、丁度良くハリーが部屋の前を通り過ぎたらしい。これ以上ギャラドスの話を続ける気も無かったので、ルーピン先生の視線に頷きを返して彼らが戻ってくるまで水魔を観察していた。程なくして、二人が連れ立って部屋に入ってくる。ハリーは私が部屋に居たことを凄く驚いていたようだった。

「──え、蛍?」
「はあい、何だか久しぶりね、ハリー」
「うん、でも、どうして? 君、ホグズミードは?」

ルーピン先生が水魔を調べているのを横目に、ハリーが尋ねてくる。多分まだセドリックとは面識がないはずなので、ぼかして答えておいた。

「一緒に行くはずだった相方をね、箒に譲ったのよ」
「え?」
「ふふ」
「二人とも、紅茶はどうかな?」

戸惑うハリーに意地悪くも笑っていると、タイミングよくルーピン先生が声をかけてくれる。ティーバックのそれが用意されるのを眺めていると、ハリーが思い出したように喋り出した。

「そうだ蛍、僕、クロードにお礼が言いたかったんだ」
「アルくんに?」
「うん。こないだ、魔法生物飼育学の授業でマルフォイにガツンと言ってくれて、凄くスカッとした!」

ルーピン先生が居ることも忘れたように興奮するハリーに苦笑して、私はローブからアスを出した。

「私も、その時のことはアスから聞いたわ。アルくん、凄く格好良かったわよね」
「本当! 蛍の友達だからってのもあるけど、スリザリンにも良い人がいるんだって思ったよ」

ハリーがあまりにも瞳を輝かせるので、思わずその頭に手を伸ばして撫でていた。

「……蛍?」
「ハリー、そのこと、忘れちゃだめよ」

今はまだ意味が分からなくてもいい。だけど、寮だけで人を判断して欲しくなくて、ゆっくり告げた。大人しく撫でられているハリーにちょっと笑んでから、私ははたと思い付いた風を装ってローブのポケットを探りながら話し出す。

「そういえばハリー、スキャバーズの前足の指が一本欠けているんだけど……いつからか、分かる?病気の原因だったりしないかしら……私、ネズミの病気については様々な本を調べてみたけど、指がなくなる病気なんてなかったし」
「え、そうなの? スキャバーズってずっと前からお兄さんたちのペットで、お下がりでロンに渡ったらしいから……その間に何かあったのかな?」
「よければ今度、ロンに聞いておいてくれる?」
「うん、分かった」

徐に出した写真に、ルーピン先生が凍りついていた。私はそれを横目にしながら、至って平常を装う。

「……蛍、ちょっと込み入った話があるんだが」
「奇遇ですね、私もありますルーピン先生。もう一人つれて、今日のパーティーの後に参りますね。お早くしたいならば、ゴーストの余興からで構いませんので、アスにどっちか言って下さい」

きっと彼は突然出てきた疑問にぐるぐると思考をかき乱されているだろうが、いま大事なのはハリーなので先生には悪いけど私はハリーを促した。

「ほらハリー、ルーピン先生に聞きたいことがあったんでしょう? 私は水魔の観察をさせて貰うから──えーと、いいですか? ルーピン先生」
「……ああ、自由に見てまた面白い論文を書いてくれ」

動揺を感じさせない優しい瞳で、ルーピン先生は言ってくれた。水魔に少々渋い顔をしているアスは、時々チラチラとハリーとルーピン先生の様子を伺っているようだった。

「こら、アス。邪魔しちゃ駄目でしょ?二人にとっては大事な時間なのよ」
『……でもあのルーピンってやつ、偶にこっちを見てるぜ』
「え?」

気を探ると、確かに偶に見られているようではある。けれど、それは戸惑いと興味のような。

「私のことを訝しがるのは勿論だとして……もしかしてアス、アニメーガスと思われてるんじゃない?」
『──はっ?』
「さっき私アスに聞いて〜って言ったし」

普通人間は動物とは話せないから、探られてるのはアスの方である。

『……なんか、不名誉だ』
「あははっ」

そうこうしている内に、ドアがノックされる音が響く。この短時間に三人も来客があるなんてルーピン先生も大変だ。

「どうぞ……ああ、セブルス、どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?」

教授はハリーの姿を見て足を止め、奥にいる私を見て目を見張った。

「(……え、そんなに驚かれること?)」
「ちょうど今ハリーと彼女に水魔を見せていたところだ」
「それは結構。ルーピン、すぐ飲みたまえ」
「はい、はい。そうします」
「一鍋分を煎じた。もっと必要とあらば」
「多分、明日また少し飲まないと。セブルス、ありがとう」
「礼には及ばん──ミス・日比野」

完全に教授とルーピン先生の世界だったのに唐突に名前を呼ばれて、一瞬反応出来なかった。

「えっ? はい」
「暇ならばこんなところで現を抜かさず、もっと休日を有効に役立てては如何かね」
「!」

ハリーの手前なので誘い文句は素っ気ないが、これは「暇なら我輩と一緒に魔法薬を作らないか」というお誘いである。

「はいっ、教授! ルーピン先生、ご馳走さまでした。ハリー、またね」

私は上機嫌で二人に手を振って、教授の後を追った。後にはポカンとした顔のハリーとルーピン先生が残されるのみである。

「……今のどこに笑顔で立ち去る要素があったのか全く分からないよ、蛍……」
「彼女、凄くセブルスに気に入られてるんだね……驚いたよ」
「えっ!?(あれで!? でも蛍嬉しそうだったし……)」
「私も、彼女と話したいな……色々と」



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