多重トリップ過去編


□ラストシーンは笑顔の思い出
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あれ以来ハリーと一緒に居ることになったシリウスが、クリスマス休暇の前に『クリスマスプレゼントにハリーに箒を送る!』と息巻いていたのが良い思い出だ。隣でハリーは不思議そうな顔をしてたけど、楽しみと称して明かすことは控えた。彼の送る箒を取り上げられないように、早め早めの計画でダンブルドア校長には既に手紙を書いていた。大切なお話があります、と。休暇に残ったキリクにもドイツ語で事情を話し、此方のメンバーは取り敢えず私とアルくんとキリクとピーターになったのである。

「ピーター、この二人は私の大切な友達で、私達はあなたの味方だから」
『僕の、味方?』
「ええ、あなたの、勇気の味方」

ピーターはきちんと勇敢さを自分の中で育てて、決心してくれた。

「一緒に居るから、頑張ろうね」

事情を話すにはやっぱり元の姿に戻らないといけないんだろうから、実は私の懸念事項はそこだった。動揺しないといいな。あんまり皆の外見は映画俳優さんとは関係ないみたいだからアレだけど。

「……ネズミでよかったわ」

インパクトは其処まで大きくは無かったけど、おじさんを匿っていたことに違いはないので、天蓋とかで操作しやすかったネズミであったことにドイツ語で密かに感謝した。声を拾ったキリクはピーターを受け取った日に私がドイツ語で零したことを覚えているのか、苦笑して「お疲れ」と言ってくれたけれど。

「ふむ、そうじゃったか……となると、シリウスの話も聞きたい所じゃが」
「ならばリーマス・J・ルーピンも呼んで差し上げるべきではないでしょうか」

まずはダンブルドア校長一人に。途中からマクゴナガル教授も参加した話し合いは、きちんとピーターが進めて大方理解してもらった。細かい事情はシリウスが居ないことには聞けないらしいので、私が口を開いた。

「ルーピン先生には事情を話しておいているので、直ぐに来てくれると思います。シリウスの方は、ハリーを呼んで下されば来てくれると思います」
「ハリー・ポッターを?」
「ええ、彼にも真実を知る権利がありますよね。呼びに行く際にはこの猫を連れてって下さい」

アスを差し出して、アイコンタクトでシリウスもちゃんと連れてくるようにお願いする。きちんとした了承を受け止めて、終わりに向かって走り出す時間に、ぎゅっと手を握る。横から アルくんとキリクが私の手を握ってくれることにちょっと笑って、私には心強い味方がいるんだなあっと思った。ダンブルドア校長がそのことで大層微笑ましそうにしていたことも、何だか嬉しさを助長させたので気にはならなかった。

「失礼します、ハリー・ポッターです」

ルーピン先生は一足先に到着していたので、これで役者は揃ったことになる。状況が分からないまま連れてこられたんだろうハリーは、室内に私が居ることを知るとホッと息を吐いていたので笑顔を返しておいた。それもダンブルドア校長が口を開くまでの短い間ではあったのだが。

「さて、まずはハリーに両親の死の真実を話さねばならない」
「──、ダンブルドア先生、それは……その、シリウス・ブラックが、僕の両親をヴォルデモートに売ったということでしょうか? それなら、僕、その、知ってしまっているのですが」

たどたどしく言ったハリーは、確か休暇前にホグズミードでその話を聞いたのだ。沈痛な面持ちではあるが、その顔に憎悪を滲ませるには情報が新し過ぎる。

「おおハリー、ならば話は早いな。実はその話には、悲しい誤解があったのじゃ」
「誤解?」

首を傾げるハリーに、ダンブルドア校長が此方へ目配せを送ったのでその後を引き継ぐことにした。

「ハリーが知っているのは、シリウス・ブラックが秘密の守人になったが、彼はヴォルデモートのスパイで、ハリーの両親を売った後で友人のピーター・ペティグリューを指一本しか残らない程抹殺した──これで間違ってない?」
「……ウン」
「きっと誰もがそうだと思っていたわ。当人たちを除いてね」
「、当人たち?」
「ええ、ピーター・ペティグリューとシリウス・ブラックを除いて」

ハリーは私の言葉を聞いて、ヘンな顔をした。そう、第一の違和感はここだ。

「……どういうこと?それじゃあまるで──」
「そうよ、ピーター・ペティグリューは生きているわ」

びっくりするハリーに、ピンと立てた人差し指を出す。

「まず前提条件が間違っていたのよ。目眩ましの為にと、シリウスが直前で提案した秘密の守人はピーター・ペティグリューだった。それは同じ友人であったルーピン先生も知らなかった真実」
「え、ちょっと待って、つまりそれって──裏切り者は、ピーター・ペティグリューだったってこと?」
「正解よ、ハリー」

にっこりと告げるには重い真実かもしれないが、努めて明るく言ったのは場の雰囲気とこれまでの期間を軽くしたかったからだ。あくまで希望でしかないけど。

「仲間内でしか知られていなかった事実として、もう一個。ピーター・ペティグリューはアニメーガスで、ネズミに変身出来るの。彼はマグルを殺し、シリウスを陥れた後で自分の人差し指を切ってネズミに変身し、排水溝から逃げた」
「…………」

もう一つの違和感は、写真付きでハリーに聞いたのだから直ぐに気付けるだろう。そもそもハリーは、ネズミがそんなに長生きするはずはないというペットショップ店員の話を聞いている筈なのだ。顔を青くして固まったハリーに、苦笑をしつつフォローさせてもらう。

「クルックシャンクスはね、スキャバーズが只のネズミじゃないって気付いてたのよ。だから、執拗に追いかけていた訳ね」
「そうか……蛍は動物の言葉が分かるから、早い段階から知っていてスキャバーズを預かったんだね」

ホントは違うけど、都合が良いのでそういうことにしておいた。

「で、何故スキャバーズがあんなに憔悴していたかというと──」
「そうか! シリウス・ブラックがアズカバンから脱獄したからだ! 真実を知る彼はピーター・ペティグリューを恨んでいるに違いないから、自分を殺しに来ると思ったんだ!」

元々頭の回転は悪くないのがハリーだ。混乱から抜け出せば着々と疑問を解決していく彼に、拍手を送りたくすらなった。

「そうね。シリウスも最初はピーターを殺すつもりだったわ。だってピーターはよりにもよって、親友の忘れ形見……大切な名付け子の側に居るんですもの」
「……それって、僕のことだよね」
「ふふ、そうよハリー。シリウスは、あなたにとって最大の味方になれる人なのよ」

どこか照れくさそうなハリーは、悪人ピーターのことよりも、名付け親シリウスが悪い人じゃないと分かったことの方が心を占めているらしかった。これならば、きっと大丈夫だ。

「じゃあ、ご対面と行きましょうか。アス」

私の呼び掛けに、アスが小さくなったパッドフットをくわえて出て来る。目を見開くのはハリーだ。私は、縮小呪文を解き、彼が人間に戻る姿を見つめていた。
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