多重トリップ過去編


□花言葉に載せて
1ページ/4ページ


「遠慮しないでどんどん食べてね! 貰ったレシピも分かり易いし、きっと料理上手な蛍ちゃんの口に合うか判らないけど」
「凄く美味しいです、ありがとうございます」
「それにしてもセドの彼女がこんなに愛らしいとは思わなかった……母さんもずっと女の子が欲しいと言っていたし、良い子を捕まえたな! 流石うちのセド!」
「やめてよ、父さん」

何故こんなことになった、とはもう言わない。去年の夏季休暇にはもう一年程待って欲しいと告げていたし、そのことをきちんと守ってくれたセドリックが、クィディッチの世界大会に一緒に行くことを名目に前日からディゴリー家にお邪魔する計画を立ててくれたのだ。当初はもっと長く居て欲しかったお母さまが残念そうな顔をしていたらしいのだが、セドリックがなんとか説き伏せてくれたと後から聞いた。

「蛍ちゃんも三年連続で主席をとっているんでしょう?セドとはいいカップルね」
「母さん、蛍の得点は満点+500点くらいだから」
「そういえば魔法省でも話題になっていた論文があったな」
「え! 趣味でやっていたことに対する論文ばかりなので、そう言って頂けると嬉しいです」

会話が途切れることのない賑やかな食卓というのは、どことなくホグワーツを思わせて自然と笑みが零れる。それを見たらしいセドリックがコソッと身を寄せる。

「ごめんね、ちょっと蛍が来て浮かれてるみたいで。騒がしいだろ?」
「そんなことないわ。お二人とも、セドリックが大好きなのね」

こんな素敵な家庭で彼が育ったのだと思うと、胸が温かくなってくる。ティナの家も愛情溢れる所だったけれど、ディゴリー夫妻は本当にセドリックのことを愛しているのだということが初対面でも伝わってきた。

「……うん、そうだね、愛されてるなあとは思うよ、感謝もしてるし」
「ふふ、良い息子さんね」
「だって二人が居なかったら、僕は蛍に出逢えてなかったから」
「──セドリック……」

テーブルの下で緩く手を握られたので、指を解いて自分から絡める。セドリックの気持ちが嬉しかったし、私も世界を渡り続けた甲斐があったのだと、彼の瞳を見詰めながらしみじみ思ったから。

「気が早いと思うかもしれないけど、僕は蛍と結婚したら、二人に負けないくらい温かい家庭を作りたいんだ」

彼の言葉にほんのり頬が熱くなった。なんて返そうか迷っていると、前方から物凄く凝視されていることに気付いた。

「──ッ!?」
「あ、私たちのことは気にしないで」
「ああ、気にせず続きを」

びっくりし過ぎて思わず力を込めてしまった手を、セドリックが器用に落ち着かせてくれながら呆れた調子で口を開く。

「さっきまで話に夢中だったのに。いつから聞いてたの?」
「そりゃあセドのプロポーズを私たちが聞き逃す筈はないだろう」
「そうそう、ビデオ回しておけば良かったわね」

恥ずかしい気持ちも確かにあるのに、ご両親のあっけらかんとした態度で吹き飛ばされてしまった。思わずクスリと笑った私に、三人の目線が此方に向く。

「あ、ごめんなさい、なんというか……微笑ましくて」
「……ふふ、蛍ちゃんの笑顔って可愛らしいわよね」
「そうだな、いつも笑っていて欲しいと思うような──セド、蛍さんを大切にしろよ」
「言われなくてもそのつもりだよ、父さん」

結局、似た者家族というか、セドリックの血の濃さを感じるお泊まりだった。



***
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ