多重トリップ過去編


□我を通す道で融解
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アルくんの言った今年の出来事が“三代魔法学校対校試合”だと知ったのは彼の言葉通りその日の晩の夕食の時だった。何とも大掛かりなその行事によって寮対抗のクィディッチ試合が中止になったことに隣のキリクが絶句していたことからすると、彼も知らなかったみたいだ。随分と危険を伴うらしいその試合にセドリックが立候補するつもりだという話は直接本人の口から聞いた。少し心配だけれど彼の優秀さは分かっているつもりだし、選ばれた暁には応援すると約束もした。そう、今や誰もが注目するそんな格好の舞台に、よもや主人公くんの名前が挙がらない筈がない、という何ともいえない私の予想は、きっちりと当たってしまうことになる。

「……毎度毎度思うけど、ホグワーツ生って暇よね」

きっと寮生活という閉鎖的な環境、親の目のない友人達との結託がより彼らをモンスターにするんだわ、と少々酷いことを頭で描きながらぼやく。他校の生徒を受け入れたホグワーツが騒がしくなるのは当たり前だったが、誹謗中傷噂話に此処まで食いつきがいいのもどうかと思う。勿論話題は年齢線という制限があったにも関わらずゴブレットに選ばれた四人目の代表ハリー・ポッターについてである。

「話題に事欠かない人物がいるからな」
「ハリーのせいじゃないわ」
「人は結局中身でなんか判断されない」

珍しく図書館で起きていたアルくんが、なかなかシビアなことを言う。それもそうだけど、青少年が周りから何度も隔離されたり陰口を叩かれたり貶されたりするのを見るのは気分が悪い。

「大切なひとに分かって貰えれば十分、なんて言えるほど大人でもないわよね」
「第一ウィーズリーがあの態度な時点でポッターの苛立ちは減らないだろう」
「……アルくんって本当にロンに対しては厳しいよね」

最もなことに、二年の秘密の部屋騒ぎの時よりハリーが荒れているのは親友のロンでさえ自身を疑っているからに過ぎない。いや、ロンも意地とプライドで現実が見えなくなってるだけだろうとは思うんだけど。

「それにしても劣悪な環境ね、子供社会も大人社会も」

静かだったホグワーツの図書館も、ハリーとハーマイオニー、ダームストラングのビクトール・クラムが居ては周りも必然的に騒がしくなるわけで、最近は勉強や研究が捗らない。……だからアルくんも起きているのか。今日はもう諦めて何処か空き教室にでも移動しようか、と小声でアルくんに話し掛けた時、最悪のタイミングでスリザリン生に声をかけられた。

「よう、蛍・日比野だよな? レイブンクローのかぐや姫」
「……なにかしら」

その二つ名を貴方に許容したつもりはないけれど、と言いたい所をグッと堪えて言葉を返す。冷たく一瞥するアスに引っかかれたくなければ彼は早く下らない用件を言うべきだ。

「セドリック・ディゴリーと付き合ってるんだろう? ポッターなんかとは違う優秀で不正もしない最高の彼氏を応援する君のために、僕から素晴らしいバッチをプレゼントしよう──」

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていることにも苛立つが、ハリーに聞こえるようにいちいち強調しているのがまた癪に触る。彼の手にある胸くそ悪いバッチを見ることもせずに、私は冷静に口を開いた。

「お断りするわ。生憎、私の彼を応援する気持ちはそんな愚劣なバッチで示せるようなちっぽけなものじゃないの。フェアプレーを望むスポーツマンなら、同じ土台に立った者に対して稚拙な中傷をすること自体を嫌う。ハリーもセドリックも大事なクィディッチのライバルなのよ、私はホグワーツの生徒として、二人の無事しか祈らない」

決して早口でなく、しかし怒涛の言葉でたたみかける。すっかり机を綺麗にしてくれたアルくんと立ち上がって、ハリーにウィンクしてから図書館を出た。何故かクラムからも見られていたけれど、五月蠅くなくとも図書館で私語をしたからということにしておいた。とにかく気が立っているので余計なことは考えないに限る。

「──蛍っ!」
「あら、ハリー」

呼ばれた声に振り向くと、慌てて追いかけてきたらしいハリーが息を整えているところだったので近付いていく。アルくんも抵抗なく側に居るが、彼がスリザリン生の中でも一目置かれていることは知っているので特に心配はしない。

「あの、さっきの、ありがとう」
「気にしないで、いいストレス発散になったから」

ホグワーツには空気洗浄機を導入すべきだと思う。主に人に対して有効な。

「蛍、は、僕がズルをしてゴブレットに名前を入れたって、思わないの…?」
「思わないわ」

きっぱり言うと、ハリーは一瞬目を見開いてから、柔らかく破顔した。

「──うん、ありがとう、蛍」
「ふふ、どういたしまして」

どうやら言いたいことは伝わったらしい。あの時も、ハリーは友達と乗り越えられたのだ。きっとロンも分かってくれる。時間はかかっても、絶対に。

「気をつけてね、ハリー。怪我しないよう祈ってるわ」
「ありがとう……クロードも」
「……いや。お前も大変だな」

アルくんはちょっと虚につかれたような顔をしていたが、柔らかく苦笑して言った。今のハリーに必要なのは何よりも一人でも多くの理解者で、彼の話をちゃんと聞いてあげる人だと分かっているのだろう。アルくんは冷たそうに見えても、そういったところで絶対に間違えたりなんてしない。本当に優しい子なのだ。

「蛍! さっきの格好良かったわ!」

ほのぼのしていた空間に、広げていた本を全部片付けて来たらしいハーマイオニーが加わる。笑顔でありがとうと返すと、あの後のスリザリン生の顔を見せてやりたかった、本当に清々した!と晴れやかに告げてくれる。アルくんもハリーも笑っていて、こんな穏やかな雰囲気はきっと今の時期貴重だと感じた。

「でも良かったの? 彼、一応セドリックを応援してるんでしょう?」

ニヤリとした含み笑顔で言うハーマイオニーに、人が悪いなあと思いつつも善人ではない私は茶目っ気たっぷりに口を開く。

「いいのよ、最近セドリックは女の子に囲まれて忙しそうだし、男子の応援くらいいくら減っても」

セドリックが今までに以上に女子に人気があがり、あちらこちらでサインをねだられている様はよく見かける。困った顔をしているのは知っているが、助けるのも面倒なので放置させてもらっている。そんな内心をおくびにも出さず、拗ねている風にツンと言った私に、ハーマイオニーが吹き出す。

「あはははっ! 大丈夫よ蛍、セドリックは最初から蛍にしか目がないから!」
「ふふ、まあ私も彼を信じているからこうして好き勝手出来るんだけどね」

スターチスのピアスは鏡を見る毎にセドリックの気持ちを伝えてくれるから、不安になるなんてことはない。ティナと同じく花飾り三部作にはしゃいでいたハーマイオニーならばそのことも知っている。二人でクスクスと笑い続けているその光景を、ハリーとアルくんが苦笑しながら眺めていたのだった。



(……なんというか、セドリックも大変だね)
(…まあいいんじゃないか。アレも好きでやってるんだろうし)
((アレって)……女の子って凄いなぁ)
(ああ、それは俺も思う)



*アルくんがハリーと喋ってることに驚いた←
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