多重トリップ過去編


□目標は伝説の忍
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落ち着いてから見詰める此処、戦国の世は大層不可思議なものだった。
おじいちゃんが見せてくれたバサラ技?とかいうものも、興味深いというかどういう仕組みなのか気になるというか。派手な技を見ているとポケモンを思い出して此処はゲームの世界なのかもしれないとふと思う。私はやったことないけど、友達が最近イケメン戦国武将のせいで歴女が増えたのよ、とか言ってた気がするし、クラスの子が見てた……無双?とかいうのにも色鮮やかな衣装を着たキャラクターが居た筈だ。おじいちゃんたちはそうでもないけど、話に聞く各地の武将は本当に戦国武将かって感じるくらいユニークらしいし、忍に関してもこた兄を見慣れていた私からすれば忍者としてどうなのかと思うくらい格好と存在が派手な人達も居て。関わりたくないけどそのうちこた兄が諸国をめぐるなら一緒に遠くから見ようかって話をしていた時、その現象はやはり突然に起った。

「…!」
「光ってる…?」

自分の身体が淡い光に包まれて、指先から段々と消えていく。目に見えて終わりが分かるのは初めてだった。吃驚はしたけど、不思議と恐怖はない。何故なら此方を見守る二人の目が、深く深く温かかったから。

「……行くのか」
「そう、みたい」

私は結局二人の優しさに甘えて、彼らに私の真実を告げなかったけれど、おじいちゃんもこた兄も全て心得たとでも云うように頷いているのだから笑ってしまう。このまま死んでしまうのかもしれないし、新しい世界に飛ぶのかもしれない。はたまた元の世界に帰れるのか……、先のことは何一つ分からないけれど、私は次へ行ける勇気を二人から確かに貰ったのだから、最後くらい綺麗な笑顔でお別れしたい。

「おじいちゃん、こた兄、本当にありがとう。二人のおかげで、大事な人たちとの約束を破らずに済みそうです」
「蛍、人生は負うてばかりの連続じゃ。だが人との出会いで、その荷を軽くすることも出来る。わしらが蛍の哀しみを引き受けたからのう、前を向いて進んでおくれ」
「…………はいっ!」

優しい、優しい人たち。もしも今度、私が自分の荷を持てなくなった時、私の隣に居てくれる人がいるのならば、私は自分のことを話したい。溶け行く意識の中で、何よりも温かかった二人を思い出しながら、私は新しい道を歩き出した。

「……行ってしまったのう」
「(コクリ)」
「ほほ、風魔でもそんな顔をするのじゃな」
「!?」
「心配でたまらないと顔に書いてある。……大丈夫じゃよ」
「…?」
「蛍は風魔の初めての弟子じゃろうて」
「!」







***





この長い旅の中で、初めて母体から生まれ落ちるという経験をした。これは所謂転生になるのだろうか、と思ったけど、成長していく顔は私のままだし名前も日比野蛍のままなのでいまいち実感がない。とりあえずこの世界には忍者が居て、発達してるのかしてないのか良く分からない文明を持っているらしい。……らしいと言うのが何故かと言うと、生後半年で立てるようになって一歳にして歩き、それなりに喋れるようになった私が二歳でこた兄に教わったような忍者の修行をごっこ遊びのようにしていたら、忍だったらしい両親が「天才だー!」って両手を上げて喜んで、それからは両親の影分身とみっちり缶詰な修行の日々だったからよく外の世界を知らないから。こた兄たちが使っていたバサラも凄いけど、ここの忍者も凄い。何せチャクラというもので物凄い忍術出しては人間離れした印象を抱かされるからね。

「ねえママ、私四歳なのに本当にアカデミー行ってもいいの?」
「当たり前でしょう。火影様にも許可を頂いたし、小さいからって最上級生にいちゃもんをつけられても伸せるくらいの力を付けましたからね」

二年の修行を経て満足したらしい両親は、私をアカデミーへ通わせることにした。それは将来隠れ里の忍になる子たちの育成機関に、年若く強い私を抛り込むことで発破をかけてより多く強い忍を作るためだとか。我が両親ながら、なかなか凄い計画を立てるものである。まあ私はこの世界に忍という職業があるのだと知った時から、こた兄のような素晴らしい忍になろうと決めていたので異存はないのだが。

「今は里にとっても忍は重要。数だけでなく質もね。貴女の二個上にうちは一族の子がいて、確かその子も今年入学だけれど、優秀だって噂だからよく見ておくと良いわ」
「うん、分かったよママ」

忍者の学校は初めてなので実は結構わくわくしている。すっかり忍者らしく育てられたせいで顔に出にくいんだけどね。演技してる時の方が表情豊かってちょっとまずいと思うが、外に居る時は大体演技している。でないと表情の乏しい子どもになって要らぬ心配をかけるから。

「じゃあ行ってくるね」

にっこり笑ってママに手を振る。この世界の両親は勿論この肉体の両親なんだけど、やっぱり長さ的にも顔や名前的にも現実世界のお父さんお母さんを本物の両親と思ってしまうことも事実だった結果、私はこの世界の両親をパパママと呼ぶことに決めた。いいじゃない、友達が沢山居るように両親が何組もいたって。



***

初めての転生。
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