中編・短編


□運命の貝殻
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『貝殻には一つとして同じ模様はなくて、左右に施された対称のソレは、まさしくこの世に二つと無い運命の対であることに相違ない。』









何時もはロマンチックのロの字もないと云うのに、2人だけで海にやって来たその時だけは、ろじは愛しげな目をしながら私に美しい話を語った。
その後、何時までも2人を繋いでいてくれるようにと、綺麗な貝を一枚ずつに分けた私に、呆れるような目をしながらも、ろじはその貝を肌身離さず持っていてくれたのである。

ツンデレなんて言葉ばかりで、ツンツンだったろじは、意地悪な先輩なんて後輩に呼ばれていたから、こんなセンチメンタルな御伽噺に付き合ってくれたなんて知っているのは、付き合わせた張本人である私だけなのだ。


















…そう、だからこそ、変わり果てた彼を見つけたのが私だというのも、運命の貝殻に引かれたと思えば納得である。




皮肉なことに、学年を重ねるにつれ私達は将来に重きを置き、夢をみることや恋を愛を育むことを疎み止めるようになっていた。
恋情に身を捧げるには大きくなりすぎて、怖い程彼が好きだったから離れがたくなるのは目に見えていて、考えないようにと感情を切り捨てたのだ。
どちらからともなく、表面上冷め切ったソレは次第に二人の間に同じだけ大きなナニカを置いた。故に彼と対面して逢うのには、一年以上の空白がある。

…だというのにも関わらず、貝殻だけはいつだって知らずとも互いに肌身離さず持っていたというのだ。





表情筋の向上で、無意識に笑みが零れているのが分かった。
彼に不似合いの山の中、枯れ葉や枯れ枝に埋もれるようにどす黒いモノがろじに纏わりついているというのに、可笑しくて嬉しくて哀しくてたまらなくて不思議な、でも確かにしっくりくる感覚に私は身を委ねていた。

結局のところ私達は、ロマンスを捨てきることも出来なくて、対の貝に想いを託し合っていたのだろうか。




「(ばかだなあ、なんてばかなんだろう)」




夢物語だって、私を意地悪な目で、それでも愛おしむようにみたろじの瞳は現在濁っていて、もう私を映しはしないのに、私は彼の胸元で彼の赤い血を被った貝殻を見るだけで、不思議な充足感を得ているのだ。



もうすれ違いをすることもなく、この世で一つしかない対が離されることもなく、静かに意識の水底に沈んでしまえる。










「──ろじ、運命の対は、ちゃんとひとつに戻れるね」









水中で魚のように自由自在に動き回る、力強く輝かしいあなたが好きだった。
透明だった瞳を忘れないようにあなたの瞳を閉じて、私も過去あなたと刻んだ美しい思い出に浸りながら、霞む目を閉じた。











…胸元の貝殻は、私達のあかに染まりながら――
それでも、久方振りに揃った対称の紋様を誇るかのように、いつまでも、いつまでも美しく輝いていた。








-Fin-

















***
…ろじごめん。

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