09/10の日記
23:51
絶望で飯は食えない本編終了より六年後のエピソード
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※デフォルト名です
局地的に起こる豪雨が最近は増えているらしい。最近がいつからなのかとか、雨量がどのくらいを超えたらどう呼ぶとかは興味が無いので言及しない。私が今知りたいのは、この雨はいつ止むのかという一点だけ。
「絶対泥跳ねるよな…」
真っ白なハイソックスは学校指定のもので、泥跳ねを完璧に落とす自信はあれどもせめて小雨を待ちたいところ。私は雨空を見上げながら情緒を感じるなんてセンシティブな感性は持っていないから退屈極まりないけど、ずぶぬれで帰る程強靭な精神もない。つらつらそんなことを考えながら、帰った後でやることをぼんやり考えていたら、目の前に車が止まった。見覚えのあるそれは、専らヘリコプター移動が標準となっているらしい名探偵が私の嫌味を真に受けて買いに行ったもので、言ってしまえば私が選んだというくらいに私の好みが反映されている藍色のセダン。
「おかえり」
チカチカとハザードが点滅して、運転席を降りた男が後ろのドアを開けて屋根との間に傘をさすことで道を作った。私は別に、迎えが来るほど豊かな暮らしをしている訳ではない。
「……何やってんの、江戸川」
「山城先生から明日香傘持ってないって聞いたから。あ、あと今日の分ご飯作って欲しい」
さらりと出された交換条件に軽く息を吐いて、大人しく後部座席に収まった。私に再び会いに来た日から、江戸川はいつもこうだ。気後れすると必ずギブアンドテイクを示してみせて、好意の押しつけが拒めなくなる。
「……何食べたいの」
「ハヤシライス」
ミラーに映った端整な顔の持ち主が、子供っぽい顔で笑う。見慣れてしまったそれに、すっかり外堀を埋められてしまったと舌打ちしていたのは多分過去のこと。
「探偵暇なの」
「はは、事件が無いのは良いことだろ」
開き直って人生のやり直しを図る私を、江戸川はただ応援してくれる。私が甘さを望まないから、確り線引きしてくれつつ、ずっとこんな面倒くさい女についていてくれる。
「……江戸川、」
「ん?」
ムカつくくらい狡猾になって、逃げ場をくれない男になって、彼は戻って来た。どうせ結末が一緒なら、せめて。
「結婚しよっか」
「……………………ハァ!?」
「前見ないと危ないよ」
予想通りのリアクションをくれた彼に笑って、主導権を握れたことに満足する。ぶつぶつ「プロポーズは高級レストランの最上階の筈で」とか呟く江戸川から視線を逸らして、雨雲ですっかり暗い外を見た。
かつてバイトに明け暮れていた高校生の私は、恋愛も勿論してみたかったし、学生結婚なんて少女が憧れちゃうような単語にだって人並みにときめいてた。
「やりたいこと全部やるの、良いでしょ」
窓に映った七海明日香に言ってやって、私は工藤明日香になるのだ。
工藤の日おめでとうございます!(?)
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