02/13の日記

07:28
体育教師ジャッカルと一日早いバレンタイン
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緊張を落ち着けるためにコンコン、とらしくもなくノックをした。普段友達と訳もなく押し掛ける体育準備室はジャッカル先生と気軽にお話できる貴重な空間で、簡単に施錠出来る点で前から素晴らしいと目を付けていた穴場スポットだ。

「お、苗字一人か?珍しいな」

いつもと変わらない笑顔で招き入れてくれるジャッカル先生に、えへへとわざとらしく笑いかけながら後ろ手に鍵をかけた。邪魔されたくないのはほんの一瞬だから、誰も来ないでと根回しに穴がないことを祈る。たかが高校生に出来る事なんて、せいぜい人の少ない朝を狙うとか、見張りを置くくらいのものだけれど。

「ジャッカル先生、そろそろバレンタインだけどもうチョコ貰った?」

声が震えていないかとか、顔が赤くなってないかとか、些細なことがすごく気になる。ジャッカル先生は机で作業中だから、こっちに注視してないのは見ていてわかるのにね。

「あーもうそんな時期か。特にもらう宛もないしなぁ……」
「去年もその前も、生徒たちからたっぷり貰ってたのに?」
「ついでにくれてるだけだろ。お返し無いって分かったら半分以上減ったぞ」

笑いながら言うジャッカル先生は流石生徒と仲良しなだけあって、友チョコの圧倒的比率を理解している。義理チョコの陰に隠れた本命は、きっと見て見ぬふりなんだろうなあ。

「じゃあ今年は私が一番乗りだね!」

意図して明るい声を出して、頑張った甲斐もあり綺麗に包まれたチョコをジャッカル先生の目の前に差し出した。きょとんと瞬くジャッカル先生の睫毛、よく見ると長いのがとってもセクシーでキュンキュンします。

「え、オレに?」
「うん!因みに、本命ですよ 」
「はは、有り難く受け取るわ」

冗談混じりに言ったから、きちんとジャッカル先生は“そうして”受け取ってくれる。バレンタインが休日だから週明けに渡す人も多いだろうけど、それも「サンキュ」と爽やかな笑みで受け取ってしまうんだろう。ワイルドな顔立ちに似合わない優しさと綺麗な発音は、女子の心臓を鷲掴みにする危険を孕んでいて要注意。魅力的な人物を好きになると困りものだ。だからこれは、そんな彼にやきもきしてきた私への一方的で略奪的なご褒美。最後でもいいからと欲しがってしまった私へ、現実を見るための卑怯な手段。

「来年は、冗談じゃなくなるので覚悟しててくださいね」
「…………えっ」

肩へ置いた手に振り返ったジャッカル先生の唇に、軽くキスを落とした。ポロリと彼の手から溢れたシャーペンが音を立てる。拒絶されたり、傷ついた顔されたり、真顔で説教されたならば、言葉とは裏腹に私は卒業まで身を隠すだろうなあなんて臆病なことを思いながら、それでも諦めきれずに目の前の大人の表情を探った。沈黙後バッと口に手を当てて顔を逸らしたジャッカル先生の耳は、真っ赤だった。

「えっ」
「…………不意打ちは、どうかと思うぜ」
「えっ、す、すみません……?」

重い重い呟きは溜息のような深い呼吸とともに響いたけれど、そこに私が傷付くような音は混じらなかった。どうしよう、鍵締めておいてなんだけど、逃げるタイミング何処。

「…………あれ、不意打ちじゃなきゃ、してもいいってことに…………」

なりませんか、なんて言葉は、ぎゅっと握られた掌に吸い込まれるように消えていった。大きくて骨張った男の人の手が、ジャッカル先生と比べると異様に小さい私のそれを包み込んでしまう。

「卒業まで、冗談なんだろ?」
「ま、ってて、くれるんですか?」

押さえ込んでいた体の震えが出てきても、ジャッカル先生は照れくさそうに笑うだけだった。




◇◇◇

妄想が降りてきた結果勢いで書いていた。ジャッカルが好き過ぎて爆発しそうです。

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