04/20の日記

17:02
Always×WT小話(IF部屋より未来設定)
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※デフォルト名です


「三郎さん! 個人ランク戦付き合ってください!」

 露国からの出張帰り、早く蛍に会いたくて、帰還報告の顔出しがてら開発室に詰めてる彼女を迎えに来た。しかし目的地にたどり着く前に、元気いっぱいな後輩に捕まる羽目になる。

「緑川、見て分からんのかこのスーツケース。私は長旅から帰って疲れている」
「だって三郎さん見かけた時を逃すと次いつ会えるか分かんないじゃん! 俺より俊敏な人と対戦したいんだよー! ちゃんとポイントも稼いできたから10戦×2本は確実に付き合ってもらうよ!」
「えー」

 露骨に嫌な顔をしてみたが、犬っころには通用しなかった。無念。まあでもいいか。残量はギリギリだ。もしかしたらなるのではないかと思われる未来に、ちょっとだけやる気になった。

「じゃあ最初に約束な。勝負が終わって私が部屋からもし出てこないことがあったら蛍を呼んで欲しい」
「蛍さん? なんで?」
「充電が切れてるから」
「……それ冗談? 三郎さんって本当に蛍さんのこと好きだよね」
「薄っぺらな言葉で表現するな。愛してる」
「ハイハイ」

 なんか緑川に告白してるみたいになってちょっと笑った。電池が切れると私は応答も出来ないだろうが、ラウンジに出水と米屋の姿があるから緑川が無理でもあいつらが動いてくれるだろう。遠慮せず後輩から微々たる点を貰いながら、段々霞む視界を閉じた。



◆□◆□◆



 あまり姿を見かけない為知らない隊員も多いが、ボーダーには海外支部というものが存在している。世間的に三門市にしか開かれていないと思われているゲートは世界中のあらゆるところで出現しており、数は少ないもののその対応をしているのが海外支部だ。外務も担当の営業部長、唐沢さんの斜め横辺りに据えられたその部署は、所属している人間もほぼ三人しかいないという少数精鋭だ。今ラウンジのモニターでは、海外支部所属の鉢屋三郎とA級隊員緑川駿の闘いが皆を釘付けにしていた。

「やーっべえな。ホントに三郎さん出張帰りか? ピンピンしてんじゃん」
「緑川に先越されなきゃ個人ランク戦挑めたのにな〜」
「おや弾バカにしては謙虚な発言じゃん? 次予約すればいいのに」
「……槍バカ、さてはお前長期不在後の三郎さんを知らないな?」
「ン? 何かあんの?」

 暢気な顔を晒す槍バカが羨ましくすらあるが、俺も蛍さんと仲が良くなかったら知らなかったかもしれないことなので大っぴらには言わないでおく。

「取り敢えず早めに蛍さん呼ぼう。槍バカ行け」
「何? 鉢屋三郎暴走タイムとかある感じ? 開発室行ってきまーす」

 言わずとも察した圧に、駆け足で米屋が離れていく。戦闘バカではあるが状況は読めるやつなので今後はこいつも三郎さんの事情に巻き込まれやがれと思う。画面の中ではグラスホッパーでひょいひょい移動したい緑川が、スパイダーのワイヤーで翔んだ三郎さんに弧月二本斬りされていた。毎度思うが斬新な闘い方過ぎて誰も真似できない。何である程度固定されるはずのワイヤー軌道であんなに自由に動けるのか謎だ。

「おっ、時間切れか」

 緑川しか退場していなかったステージから三郎さんの姿が消え、タッチの差で再戦希望を出したであろう緑川が現れる。キョトンと辺りを見渡してから、ハッとした顔で個室に戻った緑川に声をかけるかと腰をあげると、思ったより早く蛍さんと米屋がやって来ていた。

「出水くんお疲れ。連絡ありがとう」
「いえ。早かったですね」
「帰る!!って凄い勢いのメッセージ送ってきたのに辿り着かないから、誰かに捕まってるんだろうなあとは思って様子見に出てきてたんだよね」
「なるほど」

 納得の答えである。蛍さんは手慣れた様子で三郎さんが入った個室に向かっていく。途中で焦った様子の緑川が通路に出てきて、蛍さんの姿を見てホッとしたのに手を振る余裕すらある。

「三郎さん今どうなってんの?」
「通信繋げても返事がなかったよ」
「寝落ちた系か〜?」
「うーん近いかも」

 知らないって平和だわと思いながらも一緒に部屋に入る俺。ベッドに転がる三郎さんに近寄ろうとする男二人の襟首をガッと捕まえ、ドアの近辺に待機する。間違っても外から開かないように、野次馬が覗こうと湧いても見えないように、俺は今から壁になる。

「出水先輩?」
「なんだよ弾バカ」
「あんま近寄らない方がいいぜ」
「三郎さん獣か何かか??」

 笑いながらもいうことは聞く二人に手を外して、見守りに徹する。蛍さんは後ろの状況を気にすることなく、三郎さんが寝ているベッドの縁に座って彼の顔を覗き込んでいた。

「さぶろー?」
「……」

 歌声にも似た柔らかな呼び掛けに、睫毛が僅かに動いたような気がする。これは蛍さんに対する本能みたいな反応だろうなと、この状況に出会した何度目からか察するようになった。俺は一瞬この後の展開的に緑川の視界を塞ぐべきか迷ったが、まあいいかと思考を放り投げる。俺たちの視線の先にいる蛍さんは、優しい手付きで三郎さんのおでこと瞼を覆った。

「俺が無理言ったからかな……」

 呟くように溢した緑川の言葉にはノーを返しておく。三郎さんは多分こうなる展開を期待して緑川との勝負を全力で受けた。蛍さんもそれが分かっているのだろう、仕方ないなあという顔をしながら慈母の笑みを近付けていく。途中で垂れた髪を耳にかける仕草に両サイドの男どもが息を飲む。

「エッ」

 小さく出た声は案の定緑川で、槍バカも細い目を開きながら「まじか」と呟いた。まあ学歴的には先輩でも同い年のキスシーンなんてそうそう見るものではない。触れるだけの接触はいやらしさの欠片もなく、ドラマや舞台を見てる気持ちにすらなる。しかも目の前のそれは人工呼吸並みに生命維持に必要な行為だった。その証拠に、先ほどまでピクリとも動かなかった三郎さんの手が持ち上がっていく。蛍さんの手を求めていたらしいその動きに応えるように細い指が絡まり、落ち着く場所で力を抜く。知るまでもニコイチ感が強かった二人だが、この事情を知ってからは更にその関係性に運命的な何かを感じてしまう。

「夜まで足りそう?」
「……あと10秒、」
「はあい」

 刺さるくらいの視線たちには内部伝達を使って簡単に説明する。鉢屋三郎はトリオンを自分では作り出せないこと。幼い頃から蛍さんが口付けによってトリオンを分け与えていたこと。今でも蛍さん以外のトリオンは具合が悪くなるので受け付けないらしいこと。

「おかえり、三郎」
「ただいま、蛍」

 只管に穏やかな挨拶をして、此方の動揺などそっちのけで普段通りに戻る。いつものパターンだ。

「いやー面倒をかけたな!」

 ほくほく顔の三郎さんは蛍さんに迎えに来てもらってご満悦なんだろう。俺は対したことしてないんで、と初見にも関わらず返事が出来た米屋は流石コミュ強。

「三郎さんよくボーダー入れたね?」
「自家発電出来ないだけでタンク容量としてはそこそこ優秀なんだよ」

 緑川もそれなりに立ち直りが早かった。……いや緑川は蛍さんのこと見れてないな。多分気まずい中学生の気持ちを察した蛍さんは、腰掛けていたベッドから立ち上がった。

「じゃあ私は開発室戻るね。リヒトの防衛任務終わり次第再集合して帰ろう」
「了解」

 またね、と軽い挨拶をしながら去っていった蛍さんを見送ってから、米屋が三郎さんに問いかける。

「実際のとこどうなんです? 付き合ってますよね?」

 槍バカは目の前の光景だけで判断しなかったらしい。まあ小さい頃からの習慣だとしたら特に名前がついてない関係というのもあるのかもしれないが。

「どちらかと言うと婚約者かな」

 今度は婿入りも楽しそうだなァ、と笑う三郎さんに、今度ってなんだ、とはついぞ聞けない思春期男子たちであった。



◆□◆□◆


ワートリコラボを構想した時に書きたかったシーン上位にくい込んでるお話なんですがこのままじゃ辿り着けねえな、と思った結果先にネタの方に上げてしまうアレ。蛍と三郎は高校行ってないです。学年的には高三ですが。そして蛍は早生まれで17歳。三郎は巻き取り機能付きスパイダーで自由の翼を背負ってる。補足はそんな所かな……ワートリ再燃して続きを書き始めてるのはいいんですけど唐沢さん好きなのに絡むと書きにくくない?????大丈夫?????ってなってます。大人の駆け引きしたい(意味深)

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