散る前に。私のこの手で咲いておくれ・・・

□贈りもの・続
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靄が晴れるように、真実を見た。

夜を照らす寒々しい色味の月が、鴆の睫毛に影をつくり。リクオが覗く鴆の横顔を愁いを帯びて見せる。
慈しみだけが染みいるような触れ方で、リクオの指がそっと、頑なな鴆の唇を割った。
暴かれた禁忌に目を背けることができず、閉ざした口は吐き出せと言わんばかりに開かされ、鴆はぽろりと零していた。
「お前ぇとじゃ、子ができねぇだろ・・・」
鴆に後継ぎを産むことが求められるように。リクオなら、尚更。それが一派の、そして組の頭に課せられる荷だ。
女である鴆には叶えられぬことではないはず・・・しかし、リクオとだから、叶わぬ。リクオは妖との間に子を成せない。
だから・・・

瞬いて落ちるのは。濡れる頬に、涙も一緒に零したのだと知る。
瞬いても瞬いても、涙が瞳を曇らす。リクオは慰めるかのように、てらいもなく、鴆の眦に唇を押し当てた。
ひとつ吐露してしまえば、いとも簡単に。想いが溢れ。リクオの香や、リクオの熱や、リクオの吐息。五感で感じるリクオに、今は切なさばかりを覚える。
鴆の思う、義兄弟にしては随分と甘やかな触れ方と、主従にしては随分と近しい距離は。
「こういうのも、もう・・・やめにしよぅぜ。リクオ」
もう、誤魔化せない。リクオだって、妖怪での成人を迎える・・・男も女も関係なかった、幼い頃とは違う。受け入れてはいけない。
身を拘束するように回された腕が、切なくなる程優しく抱いてくれるのに。応えてはいけない。

リクオと結ばれることがないのなら。端から、無しにしてしまった方がいい。傷つくだけの恋だから。
危惧するのは、もうとっくに、落ちている証拠。
りーりりりりり・・・切ないその音は恋う人を呼ぶ、悲痛な泣き声だ。

リクオには後継ぎが期待される。だから、これでいいのだ。リクオの心が今、ここ(鴆)にあっても。
「いつか・・・間違いだったって、気付くだろうよ。
 お前ぇは。人を愛して、人と子を成すんだ」
ぬらりひょんとは、人に惹かれ、人を惹きつける妖なのかもしれぬ。
誰に強制されるでもなく、初代や二代目がそうであったように、リクオも見つけるのだろう。リクオの寵を受けたいと、リクオが褥に侍らせたいと、望む人を。
「オレを思ってくれるなら。
 覚めることが前提の、残酷な夢路に誘ってくれるな」
気持ちはいつしか醒めて、リクオが人の娘に心変わりし、あまつさえ抱いたとて。鴆には悋気を露わにすることすら許されぬ。
鴆はリクオの子を身籠ることないのだから。

そんな全てを受け入れることが恋だというのなら。独り泣く日々に、心は耐え続けられるのだろうか。
弱い妖怪(鴆)には、とても。リクオとの恋は、大きすぎて重すぎて、負いきれない。
愛された分だけ、後が辛くなる。極上の夢の後、残るは非情な現実。恋心を自覚した瞬間、実らぬと知った。
心通った、この瞬間(とき)だけを大切に抱えて、リクオの幸せを祈るから・・・
互いにまだ言葉にせぬ曖昧なものを、刺激することなく終わらせてしまった方がいい。
この恋は・・・ただ、苦しいだけなのだから。

続く・・・
 

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