散る前に。私のこの手で咲いておくれ・・・

□ごっこ遊び・中
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鴆は息を呑んだ。
鴆の唇に触れるはずであった杯は、鴆の手には、もうない。
杯の代わりとでも言うのか・・・姿を現したリクオの、唇が。鴆の唇に重なった。
月は、まだ雲に隠れている。夜の帳に、ふたりの姿も。また思惑も、紛れる。
鼓膜を震わせる音でなく、肌を擽る吐息だけが、鴆の元に届いた。
「俺も好きだぜ」
鴆にはリクオの意図は見えずとも。
『鴆が』『好きだ』。
それに躊躇いもなく、鴆は答えた。鴆にとって呼吸するのと同じ位、当然のことであったから。
「そうじゃねぇよ」
「ああ?」
リクオの手が鴆の手を握る。羽織を掴んでいた鴆の指が解かれ、リクオの指に絡められる。
「鴆と。懇ろになりてぇってんだ」
静かに曝した声が小さく響いた。

狂気にも似た情炎を身に纏うリクオに、鴆は思わず身を引いた。
けれど繋いだ手が、許さない。
リクオは瞳を金色に輝かせ、笑う。薄暗闇のなか、そこだけが、ぎら。と光った。
「ふざけんじゃねぇよ、リクオ」
「冗談でもなけりゃ、お前ぇを馬鹿にしてるわけでもねぇ。
 本気なんだぜ、鴆」
リクオの深くて底の見えない双眸が、もの欲しそうに鴆を見る。
鴆の素肌を暴こうとするような。雄の性を隠さぬ視線に耐えかね、鴆の身体が逃げをうつ。
鴆はいざろうとしたが。立てた膝は裾を乱し、露わになる鴆の白い足は、リクオを煽るものでしかない。
リクオは目を細め、鴆の裾を大きく割り、開いた鴆の足の間に体を滑り込ませた。
後退って逃げようとする鴆を押さえつけ、鴆の上に伸し掛かる。

りーん。りぃぃぃぃぃ・・・
転がる鈴のような虫の音は涼やかで、どこか寂しげだ。
月が雲から顔を出す。鴆の瞳に月が映る。そうして鴆の瞳も、金色に染まる。

その月を掴むようにリクオは手を伸ばし、鴆は怯えるように身を竦ませた。
「鴆。そんなに締めるな」
色情を含んだ声音で、ゆっくりと囁かれ、鴆の顔が赤く色づく。
閉じようとする鴆の太ももが、リクオの腰を締め付け、まるで鴆がリクオを誘っているようだ。
ほんのりと桜色に染まった鴆の耳朶が、透き通るように美しく。
リクオは鴆の首筋に顔を埋め、舌を這わせ軽く歯を立てた。
「っ・・・」
ぴくりと。鴆の身体が震えたのを抱きしめた腕ごしに感じる。
甘噛みされた鴆の耳朶は、一層鮮やかに発色した。けれど明日になれば、名残りすら見つけられないだろう。
「ふざけて・・・お前ぇはこんなことができんのかよ」
リクオは鴆の耳の付け根に唇を当て、きつく吸い付いた。鴆の着物の下、鴆の腿にリクオの手が滑る。
短く息を呑んだ後、鴆の掠れる声が告げたのは。
「義兄弟・・・だろ?」
「ああ?」
間近に迫ったリクオの真剣な眼差し。
鴆は、獣めいた本能に情思を絡めたその瞳に、しばし魅せられた。
 

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