散る前に。私のこの手で咲いておくれ・・・

□贈りもの・閑話
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厄介な男に見つかってしまったものだと思った。

この・・・色も形も定まらぬ曖昧なものを、鴆は刺激することなくただ、ひっそりこのまま。大切に抱えて。墓まで持っていこうと思っていたのに。
それをこの番頭は、思いとして昇華させてしまった。
恋という名で。

たしかに、鴆はリクオが好きだ。否定はしない。だが、それが恋?
『好き』で片付けるには度を越した好意。けれど、仕方ないだろう。生まれと育ちがそうさせた。リクオは任侠の、義兄弟で主従なのだから。
ひととなりには惚れても・・・浮ついた意味で惚れたなど・・・あるはずがない。

たとえ番頭から見て、そうだったとして。これは鴆のものだ。鴆だけが真実を知っている。
鴆が解釈せぬものに、番頭は答えをだしてしまった。ただの推測だけで。そんな権利は、番頭にはない。
雨が空気を湿らせ、肌に重く纏わりつく。
月の隠れた、灯の灯らぬ廊下は暗い。迷走する胸中の如く。先に光すら見えぬ、闇。

番頭に言われなければ、己を信じ続けられた。それが、まるで台無しだ。
恋だと指摘されれば、途端。鴆の信念が揺らぐ。唱える義兄弟・主従の言葉が、嘘くさく思えてくる。

瞬きで雫が落ちる。ひとつ、ふたつ。鴆の頬に流れる。
しとしと。しとしと。雨音だと思っていたそれは、実は誰かの泣き声だろうか。
「鴆様っ!?」
鴆の顔を見上げ、狼狽する番頭が滑稽で、鴆は小さく笑みを漏らした。
泣き声は止まず、瞳から降る・・・も。
寂然と頬を濡らすのは、鴆の涙。

恋・・・だなんて・・・
リクオに・・・だなんて・・・
弱い妖怪(鴆)には、とても。大きすぎて重すぎて、負いきれない。

リクオに。
恋なんて、しない・・・
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