散る前に。私のこの手で咲いておくれ・・・

□淡い、これをなんと云う? ・下
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羽衣狐との因縁は、ひとりの女(人)がきっかけだという・・・・・・それはそれは、美しい姫。
しかしどんなに美しかろうと、人はあっという間に老い衰える。永くを生きる妖からすれば、酷く儚い人の、美しさは一瞬でしかない。
契りを交わす相手に、同じ時を生きられぬ人を選ぶ妖は多くない。
羽衣狐と殺(や)りあう程の妖ならば、望めばどんな女(妖)でも手にはいったろう。
けれどリクオの祖父は人に惚れ、後添いもなくひとりを貫いている。

男のリクオが祖父に似ているというのなら、女のリクオはその姫に似ているのだろうか。人のリクオには、妖を虜にし続ける、姫の血が流れている。
受け継いだ血が、妖を惹きつけるのか。
淡島は長楊枝を口に咥え、ぼんやりとリクオを見やり、思う。
まだ輪郭にまろさを残す、子供。愛らしくはあるが、妖を籠絡させるような魅惑的な美女ではない。

妖のリクオと違い、後を継ぐというわけでもないのに。妖怪と人、相容れぬ存在にも関わらず、妖怪達に慈しまれる人のリクオ。
本家の者はリクオに、肉親に抱くのと同等の、情が湧いているだけなのか。
「ねぇ・・・淡島って、男なんだよね?」
「そーだぜ!今は女だけどな!!」
瞳を際立たせる睫毛、肌理細やかな柔い頬、自然なままの淡い色の唇。
目が離せずにいた淡島は、後ろめたい心地で視線を逸らし、高鳴っている鼓動を気取られぬよう努める。平静に答えたつもりで、若干声が上ずったのがリクオに伝わったかと思った時。

リクオは不意に、手を伸ばした。
「男のひとなのに」
長い睫毛が瞳に影をおとす仕草が、妙に大人びて見えどきりとする。

たとえば、相手が奴良組の妖怪ならば、恐らく鬼神の一撃で打ち砕かれているところだろう。
リクオが伸ばした手の先には淡島がいて。自然その手は淡島の身体に触れた。
それは構わない。女のリクオを気に入っているのだから、身体の接触に嫌悪感などあるはずがない。
「なんでこんなに大きいの?なにか特別なことしてるの?」
けれど、落ちつかず、そわそわする。淡島は長楊枝を噛みしめた。
触れても構わないと思うのに、できれば触れてほしくないと思う。
どっちつかずなど、らしくない。混乱している間にも、リクオの手が何かを確かめるかのように触れる。
淡島の胸に。

男のリクオの顔や腕に押し付けても平気なのだから、女のリクオだって平気だ。問題なんてないと思う。
「おい、リクオ〜。なんだよ、いきなり」
しかし、問題はない。と言い聞かせれば言い聞かせるほど、変に意識してしまう。
厭らしさのない、触診のような触れ方にも、淡島の鼓動は跳ね、体温は上がる。相手が女のリクオだと、息苦しさすら感じる。
男のリクオなら平気だ。女でも冷麗や紫なら、こんな動揺はしなかったろう。
胸の内に、掻き毟りたいような、何かが湧き上がる。

リクオは淡島に顔を近づけ、ふっくらとした唇を尖らせ、やや潤んだ瞳を眼鏡越しに覗かせた。長い睫毛で瞳が隠れる、その瞬き毎に、淡島は息を呑む。
「ボク、全っ然成長しないんだ」
ぎこちなく視線を下ろせば、リクオの手は、今度は己の胸に手を当て・・・己の身体だから遠慮もないのだろう。下品な表現が許されるならば、その様を、鷲掴み、揉んでいるという。
淡島には敵わないものの、かといって平らでもない控えめな膨らみが、リクオの手で形を変える。
リクオが言ったとおり、淡島は男で。
リクオは子供だけれど・・・

淡島の顔は極限まで赤くなった。
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