短編2

□踏み潰されたセカイ。
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誰だ、と声のした方に視線を向けると、そこには同じクラスの一ノ瀬くんがいた

私を罵っていた女の子達は一ノ瀬くんに気があるのか、又は恥ずかしくなったのか

顔を赤に染めながらあっさりとこの場から去っていた


取り残された私と一ノ瀬くんはポツンと階段にたたずむ

そんなに颯爽と引き上げられたって逆に困るな、なんて頭の片隅で考えながら

しゃがんで、踏みつぶされた楽譜をそっと手に取る



「手伝います」

「……ありがとう一ノ瀬くん」

「目の前でそんなことをされて、無視できるわけないでしょう」

「一ノ瀬くんは優しい」




私にはできないや。

そう続く言葉を喉の奥で止めた後、そっと飲み込んで楽譜を拾い、皺を伸ばす

ぐしゃぐしゃで何が書いてあるのかわからないけれど、確かこれは徹夜で作った曲だ。

こんな呆気なく崩れてしまうんだなあ



「私は好きですよ」

「え…?」



急に発せられた言葉に情けない声が漏れる

声を発した一ノ瀬さんを見てみると、彼は、皺になった楽譜を私に渡しながら小さく笑った




「貴方の音楽、私は好きですよ」

「!」

「私は貴方が周りの期待に答えようと影で努力してることも知ってます」

「っっ…」




"天才だ"と両親のように崇められた私だけど本当は、天才なんかじゃなくて

ただの、一般人で。

完璧な私を作り上げなくちゃいけない。天才はどこにもいないんだと。

誰か気付いてほしい。心のどこかで思っていたことを、ロクに話したことも無い

クラスメイトに気付かれるなんて、全然笑えない。



「一ノ瀬、くんは…っ…なんで」

「秘密です」

「…それは…卑怯だなあ…っ」




―――
――――




「何を考えているんですか、口元がにやけてますよ」

「……イチノセクンのことを考えてました」



あれから3年

あの時、私を救ってくれた一ノ瀬くんことトキヤはアイドルとして、私は作曲家としてデビューを果たした

それから、



「貴方も"一ノ瀬"じゃないですか」

「わかってます」



私達は付き合って、つい3か月前に結婚をした。

あの状況で惚れないほうが可笑しいだろう。全く。



「ココア、入りましたよ」

「ん、ありがとう」



ソファーに座っている私の前にいれたてのココアを差し出すトキヤの唇に、お礼、とキスをした

幸せだなあ、なんて思いながら私はそっとココアに口をつける

ああ、暖かい。





踏みされたセカイ。

(色を付けてくれたのは)(紛れもない君でした)


駄文で定評(?)な恋音です。これは結局、トキヤさんと幸せになった夢主が書きたかっただけなんです無表情GJ
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