ときめけ、恋ごころ

□手を繋いでもいいですか?
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姉さん、という声が聞こえて振り向けば、とんっという軽い衝撃が走り、シャンプーの香りが鼻をかすめた。



「どうしたの、テツヤくん」



私より少し大きい身長のテツヤくん。高校生になってもっともっと伸びた背に少しだけ寂しさを感じる。

ぎゅうぎゅうと抱きついてくるテツヤくんの、私と同じ水色の髪を撫でる。

すると、テツヤくんは私を抱きしめる力を強めてもう一度、姉さん、と私を呼んだ。

私もそれに答えるように、テツヤくんの腰に手をまわして、なあにテツヤくん、と名前を呼ぶ。



「何でも、ないです」



そう言いながらも私の首元に顔をうずめているテツヤくん。ああ、何かあったんだなあと私はそっと微笑む。

甘えることが苦手なテツヤくんはこうやって、たまに私に抱きついてくる。精一杯の甘え。

ちゅ、と私の耳元近くの髪にキスをするテツヤくんに、ふふっと微笑んで手を握る。



「テツヤくん、夕飯姉さんと食べに行かない?」

「はい」

「ああ、でもテツヤくん帰って来たばかりだから着替えたいわよね。制服だし…」

「じゃあ、着替えてきます」



私を抱きしめていた手を緩めて、向き合う形になる。

帰って来た時より随分すっきりとした顔になったテツヤくんは私の前髪をあげて、額にキスをした。

着替えてきます、と呟いて自分の部屋に入って行ったテツヤくんを見届けて、私もお財布を取りに行くために部屋に戻る。


普通の姉弟ではありえないかもしれない。

だけど、私たちにとってキスはスキンシップでもあり、愛情表現でもあるのだ。

それは、家族愛ではなく恋慕のものだけれど。



「あ…鞄、どこに置いたっけ」



赤い頬を冷ますように両手で軽い風を送りながら、お目当てのお財布が入った鞄を探す。

他人から見れば、私たちの関係は異常なものなのかもしれない。だけど、それでも好きになった。

お父さんもお母さんも友達も、近所のおばさんも私たちのことを、仲のいい姉弟としか思っていない。



「どうしよう、鞄が無いわ…」



いつも置いてある場所を探しても鞄は見つからなかった。

私よりしっかりしているテツヤくんなら鞄の場所を知っているかもしれないと思って、私はテツヤくんの部屋に足を進める。



「テツヤくんテツヤくんっ私の鞄って…」

「あ、」



ガチャリ、と部屋のドアを開ければ、テツヤくんは丁度上の服を着ようとしていたところで、上半身が裸だった。

私は女子高に通っていたので男性に免疫などないし、勿論男の人の裸を見ることなんてめったにない。

見るといっても、テツヤくんのだけだし。まあ、そういうわけで私は慌ててテツヤくんの部屋のドアを閉めた。



「ごごご、ごごごごめんなさいテツヤくんっ」



私は顔を真っ赤にしながらドアの前で謝る。すると、目の前のドアが開いて、テツヤくんが出てきた。

ノックもせず入ってごめんなさい、と謝るとテツヤくんは小さく笑って、いいですよと言った。



「で、鞄ですよね」

「えっああ!そうなの!いつも部屋に置いてあるのに…」

「それなら昨日見ましたよ、リビングで」

「リビングで?」



そう言われて首を傾げると、テツヤくんはまた私の髪にキスをして、その鞄を取ってきてくれた。



「ありがとうテツヤくん」

「いえ、じゃあ行きましょう」



そう言いながら手を差し出してくれるテツヤくん。出かけるときは手を繋いで、

私は微笑みながらテツヤくんの手を取り、私たちは人が行きかう夜の街に飛び出すのです。






手を繋いでもいいですか?

  (手を繋いだあの日を僕はきっと)
 

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