ときめけ、恋ごころ

□燃える恋か燃えない愛か
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もしね、私があんたを好きだっていったらどうする?

そんな言葉をアイツの前で述べる自分を想像して吐き気がした。

私は教室で椅子に座って次に使う授業のノートにガリ、とシャーペンを押しつけた。うるさいな

パキ、シャーペンの芯が折れる音。ああホントくだらないくだらないくだらない。



「みてみて!新作の雑誌っ」

「あっコレ1年の黄瀬くんがのってるやつでしょ?」

「そうそうっまじかっこいいよねー」



うざいうざいうざい。クラスメイトのきゃぴきゃぴした声が耳障り。

実際耳障りなのはその"黄瀬くん"という言葉なのだけれど。ああ本当に教室は雑音が多くて頭が痛い。

シャーペンの芯が出ていないのにも関わらず私はガリガリとノートにペンを押しつける。その音も耳障り。



「そういえば黄瀬くんって…あの黄瀬さんの弟なんだよね?」

「あー…ソレ本当らしいよ。黄瀬くんがあの黄瀬さんのこと"お姉ちゃん"って呼んだ所見たことある…」

「えっウソ!?…だってあの黄瀬さんだよ?顔とか可愛いけどさー…」



もっと耳障りになったクラスメイトの声。クラスメイト?いや他人だ他人他人他人

バキリ、握ったシャーペンにヒビが入ったような気がした。ああ苛々するなあ本当

私の心情なんて知らずクラスメイトならず他人は私をチラチラ見ながらまた耳障りな言葉を口から発する。



「だって黄瀬くんあんなに愛想いいのに…」

「仕方ないよー黄瀬くんが黄瀬さんの愛想全部奪っちゃったんじゃないの?」

「あははっなにそれー!…でもソレありえるかも。黄瀬さんの無愛想さといったらねえ?」

「破滅的っていうの?あははっ」



私は壊れそうになるシャーペンを机に勢いよく置いてそっと椅子から立ち上がって教室を出る。

気まずそうにしてる他人2人の顔が目に浮かぶ。私はクスリとも笑わずあてもないまま廊下を歩きだす。

そうだ、屋上なら誰もいないだろう。…いたとしても逃げていくだろうけど。

屋上の扉を開けるとブワッと風が入ってきて、私の黄色い髪が揺れる。黄色、黄色、黄色



「おわっ!」



聞きなれた声が上から聞こえて、まさかと思いつつ屋上の扉を閉めてから私は声のした方へ視線を向ける。

黄色の髪、気付かれまいと隠れる体。ああやっぱりアイツだ。

ちょっとした絶望感と期待が胸を支配する。そして私は少しだけ震える唇で言葉を吐く。



「涼太」



やけに自分の声が響いたような気がして、心の中で驚く。あれ私の声ってこんなに響いたっけ。

驚き固まる私に構わず、アイツはガバッと体を起き上がらせて私を見る。

するとホッとした表情を見せてへにゃりと笑顔を見せた。



「なんだ姉ちゃんかー」

「また追いかけられでもしたの?」

「まー…そんなところ」



カンカンと涼太のいるところにあがる階段を登る。

「パンツ見えるよ」と言われたけどここには涼太以外誰もいないからと告げると涼太は苦笑いを零した。



「姉ちゃんはどうしてここに?」

「別に。」

「ふーん」



私が登りついたと同時に涼太は私の腕を引いて、自分の足の上に私を座らせ後ろから抱きしめてきた。

私はそれに抵抗するわけでもなく、ただ涼太から聞かれる質問に淡々と答えていくだけ。

一通りの質問をし終わったのか涼太は私をもう一度強く抱きしめて「姉ちゃん」と呼んだ。

私は上を向く。いつか抜かされた背、小さい頃はうざいくらい私についてきていたのに。

ちゅ、と唇に暖かい感覚。



「過激なスキンシップですね」

「いつものことでしょ」

「まあ、そうだけど」



キスされたことに私は怒るわけでもなく悲しむわけでもなくただ唇を押しつけるだけ。

こんなの日常茶飯事ですから、と涼太の友人の敬語を真似してみたりみなかったり。



「姉ちゃん彼氏できた?」

「できたらキスなんてしない。涼太は?」

「同じく、いたらキスなんてしないっス」

「その口調馬鹿みたいだからやめてっていってるでしょ」

「癖なんで」



ニッコリと笑う涼太。また唇に柔らかい感触がする。キス魔、変態、そんな言葉さえも呑み込むようにキスを繰り返す。

異常だってわかってる。でも気持ちには抗えなかった。弱いね、誰かがいった。別にいいけど。



「姉ちゃん彼氏つくる予定は?」

「ない」

「じゃあ俺を彼氏にしてよ」

「いいよ」

「母さんたちには内緒っスよ」

「…いいよ」



好きだって伝えられないくせに、愛おしい気持ちだけが溢れてくる。臆病者、誰かがいった。

いいよ別に、その分キスで伝えるし。



「涼太」

「ん?」



ちゅ、と涼太の唇に自分の唇をくっつけて離すと、涼太は目を大きく開いて私を見た。

淡泊淡白。でも少し甘いかもしれない。



「父さんに殴られないといいね」





 燃えるか燃えない

  (君はこれを悲しき遊戯と知っているのだろう)

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