短編2

□踏み潰されたセカイ。
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あれは確か、3年ほど前の話だった気がする。




「――ちょっと才能があるからってちやほやされて!」

「うざったいんだよね、そういうの」



私は、両親が有名な音楽家ということで、小さい頃から"音"に触れられる環境にいた。


天才、天才、と崇められる男女の中に生まれた一人娘

周りから期待に満ち溢れた視線を向けられ、両親もそれに答えるべく、厳しく厳しく。

大抵の子供はこういう場合、周りから注目され、「音楽」が嫌いになったりするものだが…

別に私はそれが苦痛と感じることはなかった。

寧ろ、そんな環境を作ってくれた両親には感謝をしているくらいだった


それを他人に話すと「変わってるよね、」ってよく笑われる

まあ、そんなことはどうでもよくて。

どうして私が、この早乙女学園の階段で罵倒を受けているのか


一言で言ってしまえば、"嫉妬"



「天才とか言われちゃってさあ!!本当にむかつく」

「先生たちにも"上手ね"って誉められても無表情かましやがって」



決して昔からこういうことを言われてなかったわけではない

幼い頃から言われ続けている罵りの言葉と蔭口、それから大層な嫌味

もう、慣れてしまった。


作曲家を目指しているの人でも無いくせにだんまりとしている私にネチネチと

言葉を投げかける女の子達にもいい加減飽きてきた。暇だ。

そして私は、アイドルコースの女の子たちに対して言葉を投げかける




「醜いですね」

「なっ!」



私を囲んでいる女の子のリーダーらしき子が悔しさで顔を真っ赤に染める

ああ、そんなに唇を噛みしめたら血がでてしまうだろうに。

可哀そうなんて思わないけれど。




「聞こえませんでしたか。醜いと言ったんですよ。貴方達が私に何か言える権利があるんですか」

「お前っ!」

「無いですよね、当たり前ですけど。こういうのは言われ慣れてるので好きなだけどうぞ」

「…っ言わせておけばペラペラとしゃべりやがってこのクソ無表情女ァ!!!」




挑発にもみたない言葉をズラズラと話しだす私に、または言葉に血が上ったのか

女の子は普段見せないヒステリックな表情で私の腕の中にあるファイルを叩き落とした


バシン、と床に叩きつけられたファイルが痛そうな音をたてる

その反動で、ファイルの中に入っていた楽譜がバラバラと散らばっていく

私の音が、転がって




「うざってえんだよ!チョット可愛いからって!!」



グシャリ、そんな悲惨な音を立てて私の楽譜は、音は、踏みつけられた

同時に、私の心も踏みつけられたような気がした


女の子は笑いながら私の楽譜を何度も何度も踏んでいく。

私はそれをただ、唖然と見つめ、紙が捩れる音を聞くだけ

女の子が最後の一枚を踏みつけようと足を軽く上げた瞬間、一つの声が階段に響いた




「――何を、しているんですか」
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