短編2

□臆病者のラブソング
1ページ/1ページ

「トキヤくんはどうしてわたしを避けるの?」

そうわたしとトキヤくんしかいない教室でわたしがずっと疑問を口にしてみた。

聞かれたトキヤくんは驚いた後すごく気まずそうな顔をして視線を下へと逸らし、黙った



「わたし嫌なことしちゃった?」

「………………」

「…無意識は怖いんだね、気付かずに傷つけちゃう。」



沈黙を貫きとおすトキヤくんから視線を外して机の上に置いてある楽譜に目を移した

シャーペンを手にとって5本線が引いてある楽譜に色々書いたりしてるけど何にも頭に入ってこない

廊下でバッタリあったときのトキヤくんの顔を思い出して隣に立っているトキヤくんの横顔を見てみた

気まずそうな顔。やっぱり嫌いなのかな、廊下の時もすごい嫌な顔されたし

そう思うと意外と素直な心はズキ、と痛んでわたしは無意識にこんなことを口に出してた



「吐いて」

「は?」

「わたしの嫌いなところ、全部言って」

「……………、……」

「戸惑うなんてトキヤくんらしくない」



やっぱり無意識って怖い、って頭のどこかで考えていてもペラペラと言葉を並べるこの口は止まらない




「わたしはトキヤくんのその仏頂面が嫌い」

「な…っ」

「顔に表情を出さないのも嫌い」

「っっ…」

「そうやって我慢して平気なフリしてるのも嫌」

「貴方になにがわかるんですかっ!!」



ガタンッ、とわたしの近くに置いてあった椅子がトキヤくんが手で倒して大きな音を立て転がった

…トキヤくんが怒鳴った。いつも不機嫌丸出しで眉を寄せるとこしか見たことなかったのに。

だからわたしは正直、少し嬉しかった。

トキヤくんが表情を出してくれることが、トキヤくんに色があるということが



「大体、あなただっていつも無表情でなに考えてるかわからなくて…!」

「うん」

「私は、あなたが羨ましい…っ」

「そっか」

「1人でいてもからかわれいても平然として、強がりも我慢も何も無縁のようで」

「うん」



ギリッ、とトキヤくんは握っていた手の力をもっと強くしてわたしを悲しい目で睨んだ

こんなことを言われても反論もせず、怒りも感じさせないわたしに苛立ってるんだと思う

それでもわたしは表情を変えずにトキヤくんの話をじっと聞いた



「私は歌に魂が感じられないと言われて…っ」

「うん」

「でも、同じ貴方は何も言われなかった!それがどうしようもなく悔しくて…」

「うん」



そうだね、だってわたしは曲を作るのが大好きだもん。トキヤくんはその気持ちを忘れてるだけなんだよ

そう机に置いてあった楽譜を見ながら言えば、トキヤくんはくしゃり、と表情を崩した



「泣いて、いいんじゃないかな」

「!」

「少なくとも今は、我慢なんてしなくていいと思うよ」



ぽたりと床に丸い染みができた。

怒った次は悲しい顔、次は笑顔が見たいなあ… なんて考えながらわたしは席をたつ

よしよし、と子供をあやすみたいに頭を撫でればトキヤくんは自分の顔を手で覆った

まあ、誰でも泣き顔を見られるのは恥ずかしいだろう。それが異性なら余計に。



「トキヤくんはいい子だよ」

「…っ……」

「我慢とか強がりできるなんてすごいや」



そう言い終わると同時にトキヤくんがわたしを勢いよく抱きしめた。

トキヤくんの体重で少しよろけて机に腰をぶつけてしまったけれど、今はそれどころじゃない

「トキヤくん?」と呼びかければぎゅうと強まる手、体が隙間も無いくらい密着する

自分のこの心臓の音も聞こえちゃってるかな、と考えた瞬間トキヤくんが口を開いた




「好きです…っ 君が好き…」

「え…?」

「避けていたのは…ずっとこの気持ちに気付きたくなかったから」

「トキヤく……」

「わかっています…君にそういう気が無いこともわかってます…」



違うよ、わたしは嫌だなんて一言も言ってない。

トキヤくんの背に手をまわして、トキヤくんの制服を強く握り、今言いたいことを言葉にする



「トキヤくん、わたしが……他人に無関心なわたしがどうしてこんなにトキヤくんに構うんだと思う?」

「それは……私がパートナーだからでしょう」

「ううん、違うよ。わたしはねトキヤくんが好き」

「!」

「トキヤくんが好きだよ… 敬愛とかそういう意味じゃなくわたしはトキヤくんが好き」




わたしは気付かないふりじゃなくて、トキヤくんより弱っちく気持ちを閉まったんだよ

こんなわたしとトキヤくんじゃ釣り合わないやって抱き合いながら言うとトキヤくんは涙目で「そんなことないですよ」って笑った

これから辛いことも悲しいこともあるけど、わたしはずっと一緒にいるから。寂しくないよ




臆病者のラブソング

(境界線、)(越えてもいいですか)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ