短編2

□その座は君のもの
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「ねえ」



そう小さな声で呟けば、「なに?」という無心な声が返ってくる。

カタカタ、というパソコンのキーボードを叩く音にミーンという熱を誘う蝉の声。

カラン…と机に置いてある麦茶の氷が音をたてた。



「夏だね」



後ろで本を読んでいるわたしを気にしもせず、相変わらずキーボードを叩く彼の背中を凝視する。

少しくらい相手してくれたっていいのに。せっかく年に数回しか会えないわたしが来てあげたのに。

口では言えない不満を心の中でつきながら、凝視していた佳主馬の背中の筋をつつつとなぞってみる。



「っっ…!」

「ふふっ」



ピクピクと反応した佳主馬がなんだか可笑しくて笑ってしまった。

いつもスカした顔して大人びた事を言ってわたしをからかうからいつもの仕返し。

調子に乗って佳主馬の背中をつつつと指でなぞって遊んでいると視界が暗転した

目の前には超不機嫌な佳主馬の顔。冷や汗が背を伝う。



「――え?」

「仕返し」



脇の部分にする、と手が入ってきて「ひうっ」という変な声をあげてしまう。

その時佳主馬が一度手を止めたがまたすぐに動き始めた。



「だめ…っくふっだめ佳主馬ぁっ」



笑いたくないのに笑ってしまう自分がなんだか恥ずかしくて、口元を手で隠す。

いい気になった佳主馬がニヤと黒い笑みを浮かべてわたしの脇を一気にくすぐりだした。



「あはははははっだめぇ!あはっ」

「仕返しだって言ってるでしょ」

「く…ふふっ…佳主馬そんなにっくすぐったそうじゃなかった…っ!あはははやめ…っ!」

「やだね」



佳主馬の腕を掴んで離そうとしても力に負けて、そのままくすぐられる

流石のわたしだってこんなことされちゃ怒りたくもなるわけで…



「っっ仕返し!」

「わ…っ」



佳主馬の隙をついて今度はわたしが佳主馬を押し倒す形になった。

さっきやられた分、佳主馬にできるのだと思うと自然に顔がニヤけて手がもぞもぞと動く。

佳主馬の顔が引きつる。



「仕返しなのだーーーー!」

「やめっ」



それから仕返しの仕合で納戸からはバタンバタンという激しい音が響いてたとおばさんに怒られた。


――わたしたちはずっと仲良しです!




その座は君のもの

 (海の中、空の上、どこへでも)

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