短編3

□操り言葉のカラクリ遊び
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「黒子君」

「なんですか」

「過去に飛びたい。タイムスリップってやつをしてみたい」

「は?」



なんだか難しそうな本を読んでいる黒子君にそう話せば、あからさまに何言ってんだコイツという目を向けられた。

確かに今のはそんな反応されてもおかしくなかったかもしれないけど、流石の私でも傷付く。

はあ、と頭が痛いとでも言いたげな溜息を吐く黒子君。その空気がひしひしと伝わって痛い、痛い。

ちょっと頬を膨らませて、黒子君が座っている前の席に腰をかける。



「ぷう、なんだい黒子君冷たいなあ」

「普通の反応ですけど」

「えー。自分の彼女に白い目向ける彼氏がいるかい?」

「普通です」




スパン、と言い切る黒子君に膨らました頬を苦笑いに変える。相変わらずそっけないでござる

黒子君はぶーぶーと拗ねる私を見かねてか、パタンと本を閉じて一つ溜息をついた。



「どうしてそんなことを言い出すんですか」

「え、どうしてって…そりゃあ黒子君の小さいころを見たいがために決まってる」

「はあ…?」

「だって黒子君頼んでも小さいころのアルバム見せてくれないんだもーん」

「当たり前です。」

「この前ね?黄瀬に頼むという最終手段を使おうと思ったんだがあの黄瀬ないとか言うんだ!」

「は?ちょっと待って下さい、どうして貴方が黄瀬くんの番号知ってるんですか」



ガタンと音を立てながら椅子から立ち上がる黒子君に私はありのままの事実を告げる。



「そんなのこの間黄瀬が黒子君の様子を見に来た時に決まってる」

「……」

「つい意気投合してメアド交換しようって……黒子君?」



ぐらりとよろめきどこか黒い雰囲気を醸し出す黒子君に首を傾げる。ん?ん?

もう一度、黒子君?と名前を呼ぶと黒子君は「黄瀬くん…」と黄瀬の名前を呼んだ。



「彼氏であるボクでも名字にくん付けなのに黄瀬くんは呼び捨てなんて…」

「え、え?ごめん黒子君話の趣旨ずれてるから」

「あ、…すみません。今のは聞かなかったことにしてください」



落ち着いたのか少し焦ったように椅子に座りなおす黒子君。気まずそうに視線を私からずらしている。

なんとなく微妙なこの空気を変えるため、私は一つ咳払いをして話を戻す。



「まあ私はタイムスリップをして小さい黒子君に会いたいわけだ」

「はあ…」

「写真より実際見た方が可愛いと思うんだよね。絶対」

「………」



私がそう言うと黒子君は一度考えるようなそぶりをして、また椅子から立ち上がる。

お?と首を傾げる私に、黒子君はいつもの無表情で私の頬に触れた。私の体温が一気に上がる。



「くくくくく、くく黒子君!?」



たったそれだけでこんなに焦ってしまう私はそうとう黒子君に惚れてるんだろう。大好きです。

恥ずかしさでぷるぷると震えだす私に黒子君は表情一つ変えずに言う



「本物ならここにいるからいいじゃないですか」

「へ?」

「小さい頃なんて別にいいでしょう。今が幸せなら」



「不満ですか?」と首を傾げながら聞いてくる黒子君に私は無意識に首を振り「ないです」と答えていた。

そして私の返答に安心したように「そうですか」ふわりと微笑む黒子君。胸が締め付けられるような感覚がした。

言いたいことが言えて満足したのか黒子君は教室から去っていこうとしたが、何かを思い出したように振り向く。



「黄瀬くんのことはまた詳しく聞きますから」



カッコよく言ってスタスタと去っていく黒子君。私はビターンと机にひれ伏す。

今絶対顔が赤い。心臓もバクバクいってるし。ああどうしようどうしよう。

何だか返答も私が望んでいたものではなかったし、どこか上手く交わされた感があるけど



「黒子君まじイケメン…ッ」



そんな黒子君も大好きですっっ!

この時の私はかっこいい黒子君に酔いしれて気付かなかったけれど、クラス全員が見ていたことに気がついたのは数時間後。




 操り言葉のカラクリ遊び

  (僕が愛だと言うのなら、君は天使に違いない)

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