短編3

□赤みがかったその顔に
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「もうすぐ夏祭りとかありそうだよねー」



ミーンミーンと蝉が鳴いて蒸し暑い教室で、下敷きをうちわ代わりにしながら目の前で同じように下敷きで煽いでいる黄瀬くんに話しかける。

つつ、とこの茹だる様な暑さで零れる汗が頬を伝う。

黄瀬くんは「そうっスねー」と暑さで少し頬をピンクに染めながら苦笑いを零した。



「夏の夜は少し涼しいといいね」

「そうっスね。夜まで暑いとやってらんねーっスわ」

「確かに、でも家にいるより外にいた方が涼しい気がするなー」

「クーラーの活躍を忘れちゃだめっスよ」



ありふれた会話をして、2人顔を合わせてクスクスと笑いあう。

黄瀬くんはとても優しい。どこにでもいるような平凡な私の話にも付き合ってくれるし、私がドジ踏んだときは助けてくれる。



「浴衣とか涼しそうだよね」

「少なからず制服よりは涼しいと思うっス」

「うんうん」



私はそんな黄瀬くんが憧れでもあり、好きな人でもある。

男と女の間に友情なんて存在しないと聞いたことあるけど、私は黄瀬くんとの今の関係が心地いいと思っている。

もし、もし付き合えたらとか思わなくもないけれど、平凡な私に黄瀬くんは興味なんてないだろう。



「暑いねー」

「あー…早く冬にならないっスかね」

「黄瀬くんきっと冬になったら、夏にならないかなとかいう人だよね」

「なんで知ってるんスか!?」

「私もそういう人だからですかね」



くすくすと笑う私に黄瀬くんはちょっと笑って、立ち上がった椅子に座りなおす。

顔もよくて愛嬌もいい黄瀬くんに寄ってくる女の子はごまんといるし、その中に可愛い子だってそれはそれは沢山いる。

その中で私を選ぶなんて天と地がひっくり返ってもありえないことだから。



「そういえば今度近くの神社でお祭りやるみたいっスよ」

「へえ知らなかった!やっぱり皆お祭り行くだろうね」

「行くっスね」

「私はどうしようかな…多分家でクーラーに当たってるかもしれない」

「えっ行かないんスか?」



驚いたように私をみる黄瀬くんに多分、と苦笑いをする。

最近クラスの子とは仲がいいとはいえない関係になってきたから。

理由は多分、目の前でちょっと残念そうに眉を下げる黄瀬くん。クラスの人気者の黄瀬くんがこんな私に関わっている事が許せないのだろう。

目立つことや人に嫌味を堂々といわれたりするのが苦手な私にはあまり行きたくないと感じさせるお祭り。



「えーっ何で?せっかく会えると思ったんスけど…」

「え?」

「あ、いやっ!」



ぶんぶんと慌てたように手を振る黄瀬くんに首を傾げる。

まあ、あまり突っ込んでほしくないことだってあるだろうから、「そっか」と言っておくことにする。

へにゃりと気の抜けた笑みを浮かべる黄瀬くんに私も小さく笑みを零す。

一緒にお祭りいきたいけど、多分無理だろうな。こんな私を誘う訳ないだろうし。



「浴衣っていいっスよね」

「黄瀬くんは浴衣好きなの?」

「好きっていうか…その…なんでもないっス」

「?」



何いってるんスか、と手で綺麗な顔を覆う黄瀬くん。黄瀬くんが落ち着くまで首を傾げて待っていると、黄瀬くんが突然顔をあげた。

この夏独特の暑さで赤くなる頬ではなく、なにかもっと別のことで赤くなっているような顔。

首を傾げる私の手に黄瀬くんが触れる。ドクン、と熱が集まる顔に跳ねる心臓。



「き、黄瀬くん?」

「あの…っよかったら俺とお祭り行かねえっスか?」

「えっ?」

「その、よかったらっスけど…」



だんだん語尾が小さくなる声に、俯いていく顔。黄色い髪の隙間から見えた耳は真っ赤。

私も顔に熱が集まっていくのを感じながら、ちょっとだけ調子にのって黄瀬くんの手を握り返してみた。

黄瀬くんが顔を真っ赤にしながら、俯かせていた顔をあげて私を見る。やっちゃったと焦る半面私の口は素直に伝えたい言葉を告げていく。



「行きたい、黄瀬くんとお祭り行きたい」



自分でもわかるくらい気の抜けた笑顔を見せているだろう。

黄瀬くんが触れているドキドキと黄瀬くんとお祭りに行けるという嬉しさで顔がつい顔がゆるむ。

黄瀬くんは私の言葉を聞いて、少し不安そうだった顔を一気に笑顔に変えて私に抱きついてきた。



「わわっ!?きききききせくん!?」

「夢みたいっス!」



ぎゅううと黄瀬くんに抱きしめられる体。

ふわりと黄瀬くんが付けている香水の香りがして私はその香りに酔ってしまいそうになる。勿論いい意味で。

ぼぼぼっとさっきより顔が赤くなるのがわかって、胸がきゅうと締め付けられるような感覚に襲われた。

きゃっきゃっと喜ぶ黄瀬くんの声に、教室のドアが開いた音とともに「黄瀬!!」という青峰くんの声が聞こえたような気がした。

どうやら私の脳は限界らしいです。





 赤みがかったその顔に

  (その熱が僕を惑わすのならば、)



両片想いです。多分黄瀬くんは夏祭りに行ったら告白するつもりです。がんばれ黄瀬くん
というか寧ろクラスの人たちは、「え?お前ら付き合ってなかったの?」「バカップルが」みたいな認識です。
ちなみに、青峰→夢主→←黄瀬な設定でした。オオフ…また3角関係の短編を書けたらいいなあと思っています。

 

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