短編3

□愛されているような気がした
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なくしてから気付くものって本当にあるんだね。

空を見上げながらそう呟くと隣で私と同じように空を見上げていた正臣が、そうかもなと呟いた。

私達は空っぽの愛を囁き合って、治った古傷をなめ合う振りをした。



「悪かった」



私を見るわけでもなく、私も正臣を見るわけでもなくただ独り言のように呟いていく。

ただの戯言だよ、そう逃げ道をつくっていくんだ。バカバカしいね。



「お前を利用して、忘れたかったんだ」

「……付き合った私も私。それでいいから、謝ることなんてない」

「自分を正当化したかったから」

「…じゃあ謝っていいよ」



ごめん、もう一度正臣は謝った。いいよドロ水に自ら落ちていったのは私だからね。

失って気付くもの、それは一番近くにあって一番遠くにあるものだった。



「優しさは時に残酷なんだって、ずっと嘘を付いててくれればよかったのにね」

「…悪い」



恋と呼ぶには穢れすぎた。廃れた恋。

いつしか隣にいることが当たり前になって、その嘘の愛の本当なんじゃないかと錯覚してしまうほど一緒にいた。

それも今日でおしまいなんだって。正臣は優しくてやわらかくて時々痛い。



「バカバカしいね」

「本当にな」



屋上に吹く風がこんな子供で縋ることしかできなかった私達をバカにしているように感じた。

偽りの愛の言葉を吐き合った時も空っぽだった。そして、最後の糸さえも切られた今はもっと空っぽで。



「泣きたいくらいすがすがしい空だね」

「……おう」



手遅れだった。



「溺れてくれればよかったのに」



そう小さく笑えば正臣は何か言ったか?と私を見た。ううん何でもないよ、私は首を振る。

嘘つき、聞こえてたくせに。でもそれはきっと正臣の優しさだから私も見えないふりをする。



「溺れたのは私だけだったみたいだね」

「………お前ってたまーに意地悪だよな」

「そうかもね」



好きな子ほど意地悪したい性分なんだよ。その言葉を遮るように正臣は立ち上がる。

行ってしまう、もうこの時間は戻らない、幸せはもう、ない。

その腕を掴んでしまいたかった。掴んで、水の中に引きずりこんでしまいたかった。



「じゃ、俺そろそろ行くわ。帝人たちも心配してるだろうし」

「…そっか、そうだね」

「今までありがとな」

「………やっぱり正臣は残酷だね、」

「だろ?」



嘘つきが嘘つきに恋した。ロマンチックだね、そのままゴールしちゃえたらよかったのに。

屋上の扉をギイと開ける正臣。今まで嘘を付き続けてきたのに、本当のさよならになると何も言えなくなる。

臆病ものだね。そんな自分も嫌いじゃないけど
、今は嘘つきの私じゃなく本当の私でいたい。



「正臣」

「ん?」



「好きだよ」



ブワッとまるで私のことを慰めるかのように風が勢いよく吹いた。

残念、私の言葉をかき消そうったってそうはいかせないよ。これが最初で最後の本当の言葉だからね。


バタン、と重たく閉まった扉に足の力が抜けてその場に座り込む。



「サンキューとか、そんな悲しそうに笑うなバカ…」



そんなんだったらよっぽど無視された方がよかった。

くるり、と振り向いて見上げた空はとてもくすんで見えた。やっぱり、世界が輝いて見えたのは正臣のおかげだったらしい。



「もう一回、見たかったなあ」



目を閉じると浮かぶのは偽りでもなんでもないあの綺麗な笑顔だった。

思い出すだけで頬が緩む。気付かなかっただけで、本当はもうその頃から好きだったのかもしれない。

そんなこと言ったってもう無駄だけど、なんて微笑しながら空を仰ぐとつうと冷たいものが頬を伝った。

涙まで冷たいなんて、心底体の中も冷えてるだろうね。



「温めてほしいな」



返事はないけれど。



 愛されているような気がした

  (あげるあげるぜんぶあげるよだから、)



/(^p^)\アー 何がしたかったんだろう…!!嘘だけの関係なんです。

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