短編3

□ゲシュタルトより愛を込めて
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赤い、髪。目を覚まして一番に見たものは見なれた大好きな赤い髪だった。

とんとん、とリズムを取りながら揺れる体に前から伝わる暖かさ。まるで小さい頃お父さんにおぶられた時みたい。

ぼーっとしてまだ覚醒しない頭をゆっくりと動かしながら視線だけを動かす。


ここはどこだろう?窓がある。これは学校の廊下にある窓だ。まだ日が出ていて昼間あたりだろうか。

窓を眺めていると向かい側に音楽室があった。曲、作りたいなあ今なら何か浮かんできそうな気がする

そういえば私をおぶっている?人は誰だろう。起きたとき見たのは赤い髪、だった気がする。

赤い髪…いっときくん…一十木くん…そうだ、一十木君に課題の曲渡さないといけない。教室に置きっぱなしだったような気がする



「ん…」



渡さなきゃ、と体を動かすと「あ」と声がしてピタッと私をおぶっている何かが突然止まった。



「##NAME1##、大丈夫?起きた?」

「…………へ?」



最近課題のパートナーになってよく聞くようになった少し高くてでもすんなりと耳に入ってくるその声。



「いいいいいっっいっ一十木くん!?」



バッと今までもたれかかっていた背中から体を勢いよく起き上がらせると一十木くんが慌てながら「危ないよ!」と顔だけこちらに向けてくれた

唖然としながらも一十木君の背中に手を付ける私に一十木くんは太陽みたいに元気いっぱいの笑みを浮かべて、また歩き出した。

目が覚めたとき目についたあの赤い髪はやっぱり、というのもおかしいけれど一十木くんだった。

その、一十木君に私はもうしかして…いやもうしかしなくてもおぶられていたりするのだろうか



「あ、あのっ一十木くん…!なんで私…」



顔を赤くしながらそう問う私に一十木くんは歩くのを辞めずに「それはね」と口を開いた。



「##NAME1##、体育の授業中に熱中症で倒れちゃったから、びっくりしたよ」

「倒れ…?」

「え、覚えてない?」

「あー…倒れる寸前の事は覚えてる…かも」



いや、覚えてる。外で体育の授業をしていた時、突然くらっと視界が揺れて足に力が入らなくなってそのまま

倒れる前、驚きながら私を支えようとする友千香の顔がとても印象的だったから



「七海も心配してた、すっげえ慌ててさ」

「うう…すごく申し訳ないなあ…」

「体育の授業が終わったら保健室にくるって言ってた」



春ちゃんの反応が相当面白かったのだろう。思いだしてくすくすと笑う一十木くん。そんな彼に私の顔もつい綻ぶ。

保健室へと着々と進んでいく。すごく、申し訳ないけど、ちょっと倒れてよかったなんて思っちゃったりして。

向日葵みたいに爽やかでキラキラした笑顔を浮かべる一十木くんが好き。誰にでも優しい一十木くんが好き。

そんな一十木くんにおんぶされてるなんて、嬉しいけど嬉しいより恥ずかしいの方がよっぽど大きい



「ごめんね一十木くん…っ私重たいよね、もう大丈夫だから」

「ダーメ!それに重くないよ、寧ろ軽い軽い!##NAME1##ちゃんと食べてる?」

「た、食べてるよ…!」



一十木くん…なんて紳士なんだろう。こんな私をおぶって軽いなんてお世辞言えちゃったりするなんて。

そんな一十木くんが好きなんですけど、とてつもなく恥ずかしい。

その羞恥から逃れるように一十木くんの服をきゅっと握ったら一十木くんが小さく笑う声が聞こえた。



「あ、ついた。失礼しまーす」

「失礼します…って一十木くん!もう大丈夫だから!下し…

「あれ保健の先生いない?」



話を聞かないで私をおぶったまま保健室に入っていく一十木くん。仕方ない諦めよう、今の一十木くんに何を言ったって聞かないだろう。

「そうだね」と小さく返事すると一十木くんは仕切りであるカーテンが開かれたベットに近づいてゆっくりと私をベットに下してくれた。

やっぱり紳士である。



「その、ありがとうここまで運んでくれて」

「ねえ##NAME1##」

「へ?何でしょうか」



私がベットに座ってほっと一息ついたところで一十木くんが突然真剣な声を出してきて、へにゃっとなっていた体がビクッと反応する。

な、なんだろう?もうしかして本当に重たくて怒ってるとか?いや、一十木くんはそんなこと言ったりする人じゃないと思うけど…多分。

ビクビクと怯える私に一十木くんは俯いたまま、微かに口を開くのが見えた。



「俺、さ。##NAME1##をここまで運ぶの立候補したんだ」

「へ…?」

「他の奴に##NAME1##を運ばせるの嫌だったから。本当はお姫様抱っことかしたかったんだけど驚かせちゃうとアレだと思って…」



おんぶでも十分驚きますけど。という言葉をこくんと飲み込んで私はへにゃっと抜けた笑みをみせる一十木くんの赤い瞳を見つめる。

期待して、いいのだろうか。お決まりの言葉を自問自答してみたりするけれど、答えは帰ってこない。



「##NAME1##」

「っ…!」

「ここに恋愛禁止令があることだってわかってる、だけど俺は##NAME1##が好きだよ」

「そんな…、一十木くんは卑怯だよ…」

「知ってる。でも##NAME1##を手に入れられるなら俺はなんだってするよ」



きゅ、と緊張で震える私の手を握る一十木くん。この人は全部わかってるんだ、私の気持ちも全部見透かしてる。

私が一十木くんを拒めないことも、全部全部知ってるんだ。



「大丈夫、##NAME1##のことは俺が守るから」



そんなこと言われちゃったら、好きなのがもっと好きになっちゃったりして

その手を取らなくちゃいけないじゃん。



「…一十木くんの卑怯者」

「でも##NAME1##は俺のこと好きでしょ?」

「っっ〜〜〜…好き、」



その手を取ったらもう引き返せない。だけど、一十木くんに骨抜きにされた私にその手を振り払うことなんてできない

受け入れるしかないんだってわかってる。

一十木くんはそれすら見透かしているんだろうなあと思うと案外腹が立ったので、仕返しにキスでもくれてやろう




 シュタゲルトより愛を込めて

  (虹色に輝いたのは君か僕か)
 

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