短編3

□雨のドレスを脱いだ蝶
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一番の友人だと、最高の仲間だと思っていた人が黒幕だと知った時、信じていた人はどう思うだろう。

怒る?泣く?怨む?



「おい…どういうことだよ」

「どうもこうも、そのままの事態よ」

「意味わかんねーよ」



知りたかった。人は裏切られた時どんな顔をしてくれるのか、どんな気持ちを味わってくれるのか。

私はそれを知りたくてずっと戦ってきた仲間を一瞬にして手の内を返して見せた。



「絶望、かあ」

「は…?」

「うんうん想像した通りだね」



顎に指を当ててこくこくとうなずくと、事実が受け入れられないという顔をした棗がその紅い瞳で私を映した。

いつもは綺麗なビー玉のような目をしたそれも、今はもうくすんでしまった石ころみたい。



「ねえ棗、今の気持ちどんな感じ?」

「あ…?」

「悲しい?泣きたい?死にたい?」



ねえ、どれ?

絶望していることは棗の顔を見れば手に取るようにわかるよ

でもね、棗が味わっている本当の気持ちは私にはわからないんだよ。だから教えてほしいの。

純粋無垢のような笑顔を浮かべると棗はくしゃりと綺麗な顔をゆがめて、俯いた。



「棗?ねえねえ私読心術のアリスなんて持ってないからわかんないよ教えて教えて」

「…だよ…」

「え?」



好きなんだよ、

ぽたりと無機質なその冷たい地面に丸い染みができた。

棗の返答に目をまんまるくする私の言いたいことを読み取ったかのように棗は俯いたまま震える唇で言葉を紡いだ。



「裏切られても…っ好きなもんはしょうがねーだろ」

「……好き、?」



怨みたくもねえよと棗が言った瞬間、またぽたりと地面に染みができた。

悲しいと思った。泣かないでと無意識に伸びていた手は棗の頬に辿りついていて自分でもびっくりしていた。

棗の事が好きだと言ったのはすべて計画のうちだと思っていた。困惑、これ以上私の心情を表す言葉は見つからない。



「好きだ」

「…うん」

「愛してる」

「うん」



棗の頬に添えられた私の手を、棗は愛の言葉を口にしながら包み握る。

好き、好き、あったかい、好き



「わたしも、好き」



愛してる

大きく目を見開いた棗の瞳はいつも以上にキラキラしていて、それを私がさせていると思うとゾクゾクした。

ああ好き、好きか。これが好きか



「愛してる」



滅多に笑わない棗が目を細めて微笑んだ。

ありがとう、なんて胸が痛いよ。





雨のドレスを脱いだ蝶

  (小さな涙を食べた蜘蛛)

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