短編3
□泣き虫な君と渇いた慟哭
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まるで恋のようだった。
他愛もない話で笑って、手を繋いでは頬を染めて、キスをすれば欲張りになって、相手に触れれば欲情もした。
これは恋ではない。
依存は恋のうちに入るのだろうか。傷の舐め合いは愛のうちに入るのかな。
それは美しい思い出だった。
アルバムに貼る写真はもうない。もうカメラにお互いを収めることは二度とない。
愛してるの見えない鎖で彼を縛っておけばよかった。
「もう帰ってこないのね」
「…わからない」
彼は少しの間傷心旅行に行くんだと痛々しい微笑みを見せた。
なんとなく気づいていた。いつかこんな日が来ること、予感はしていたんだ。それが今日だった、それだけ。
「いっちゃやだ」
「………ごめんな」
「…ずるいね」
引き止められないことも、知っていた。
悪循環だった。彼は、彼が愛した人を傷つけ逃げて、私は私でそんな彼に漬け込んで。
(なにか、手にいれたものはあっただろうか)
ぜんぶ、零してしまったような気がする。
もし時間が戻るのなら私は彼との、正臣との出会いをやり直したい。こんな、虚しい終わり方には絶対しないのに。
そう思っても別れの時間は迫るばかりで、泣かないと決めていたのに涙がでそうになって唇をぎゅっと噛んだ。
「##NAME1##」
夢が見たかった。
今までずっと現実に打ち付けられてきた人生だったんだ、少し位幸せな夢を見せてくれたっていいじゃない。
(現実は、甘くないのね)
「…正臣好き」
「……」
「だいすき」
「うん」
「あいしてる」
「…うん」
現実がお似合いだと、誰かが言った。
title:澱 雰囲気小説だよ(震え声)