短編1

□きみがいなくても笑えるわたし
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正臣が自主退学をしたと担任から聞いたとき色付いていたはずの世界は全てモノクロと化した

なんとなく正臣や帝人くん、杏里も何かに巻き込まれていることは気づいていた

臨也さんも静雄さんもセルティさんも門田さんも遊馬崎さんも狩沢さんもみんなみんな

わたしだけが取り残されたような気がしていたこともなんとなくわかっていた


一番落ち込んでいたのはやっぱり帝人くん、この池袋にきたのも正臣の紹介だって言ってたしなんたって親友だし

杏里も、正臣がいたころよりずいぶん笑わなくなって悲しそうに作り笑いを見せるようになった

正臣の彼女であるわたしは……一体どうなんだろう


聞いた話ではなんでも、正臣がむかし付き合っていた女の子と一緒に消えてしまったらしい

駆け落ちじゃないかとか聞くたび、言うたびにみんなが同情するような瞳でわたしを見る



「よく笑っていられるよね、彼氏が他の女の子といなくなったのに」



多分、友達と呼べる女の子が嫌味をいうかのように顔を歪めながらそう吐き捨てた

それは正臣に対しての嫌味じゃなくて彼女であったわたしに対しての嫌味



「まだ信じられてないの?いい加減、自分がかわいそうみたいな顔するのやめてよ苛々する」



信じられてないわけじゃない、ただ、周りが灰色になってしまっただけ

それと自分が可哀そうなんて思ってない、苛々させる気なんてなかったのごめんね



「っ…そうやってへらっと笑う顔に苛々するの!泣いてもらったほうがマシ!」



声を荒げてわたしを見る彼女の瞳をじっと見つめてみた。

正臣がいなくなって友達だった子から苛々するなんて暴言を吐かれて…吐かれて…それで?

悲しいと思うのに涙は一滴も出てくれない。まるでわたしの中の水分がなくなったみたいに

おかしいな、正臣がいた時は普通に泣けたのに。



「あ……」



そうか、そういうことだったのか。

いまわかった、わたしにとって正臣がどれだけ大きな存在だったのか

失って気づくものって本当にあるんだね。

フラッシュバックした彼の笑顔、そしてわたしの名前を呼ぶ彼に願った。早く帰ってきてよ正臣




きみがいなくてもえるわたし、きみがいなくちゃけないわたし

(きみがいなくちゃ)(笑うことしかできない)

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