キミがいた。

□月夜に浮かぶ
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白龍視点



――俺と彼女が出会ったのは、
月が美しく輝く、ある夜の日のことだった。



「…眠れない。」



その日は、なぜか寝付けなかった。

姉上もいないし、することも、
したいと思うことすらない。

俺は、できるだけ音を立てないように、
そっと中庭へと出た。



「……月。」



美しい月だった。
雲はかかっておらず、漆黒の夜空に映える、
淡いが強く、見るものを引き付ける光。

月でさえ、こんなにも輝いているのに。
こんなにも、強いのに。



――強くなりたかった。
兄上たちの仇を取るため、
あの女に復讐するため。

そのために、強くなりたかった。
だから、迷宮にでも攻略へ行きたい。

でも、ジュダルの手だけは借りるわけにはいかない。





「――、誰だっ!」



不意に、背後に気配を感じた。
感傷に浸っていただけに、すごく驚いた。



「…女?女官か?」



女。しかしそれ以上のことはよくわからない。
暗闇に、隠されてしまっているのだ。


すると、タイミングを計っていたかのように、
月の光が彼女にあたった。



「っ――…。」


絶句。
時が止まった。

そんな感じだった。


月明かりに照らされ、見えた女の姿は、
まるで女神のように美しかったのだ。


だが、彼女の青い髪が目に付いた途端、
ふと疑問を抱いた。



こんな青い髪をした女が煌にいたか…?



皇女にも、ましてや女官にさえいない。
なにより、こんなに美しい人がいたら、
以前から気付くだろう。

ならば、この初めて目にする女はなんなのか。誰なのか。



「第四皇子の練白龍さまですか?」

「あ、ああ。」



彼女は姿だけでなく、声までもが美しかった。




「私は、新しくこの煌帝国の神官補佐となりました、アルシエルと申します。」

「神官補佐…。」



そういえば、姉上もそんな感じのことを言っていた気がする。
そうか、彼女が…。



「白龍さま…。」

「な、なんですか?」


「あなた様のルフも、白瑛と同じようにまっすぐで美しいですね。」



俺を見て笑った彼女に、心を奪われた。
身体も頭も動かないなか、
心臓の鼓動だけがはやかった。



「…白龍さま?」

「…白龍。」


「え?」

「白龍でいい。」



惚れた弱み。という言葉を聞いた。
確かにそうなのかもしれない。

俺は、彼女を、アルシエルを信用してもいいと思った。



「白龍。風邪をひかないでね。」



そう言って去っていく彼女に、月が重なっていた。
――彼女は、月のようだ。


この、煌帝国の闇夜に浮かぶ、

青く美しい月だ。
 

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