蟲師&サムライトルーパー捏造話

□征士&当麻版 蟲師『筆の海』ネタ(P3)
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 が、当麻というその流しの蟲師は、まるで、不思議な色合いの宝玉でも見つけたかのように目を瞠って、そんな征士の瞳を見つめ返したのだった。そうして、なんとなく迷っているような口調でこう言った。
「・・・まあ、そういうことになるな」
 そんな答えが返って来るとは、思ってもみなかった。なので、征士も、つい、ぽろりと本音が出た。
「お前たち蟲師は、そうは言わないものだと思っていた」
 その言葉を、この蟲師は何と受け取ったものだったかーーー
「いや、だから、村の中と里山の辺りまで出て来てた奴らは、ちゃんと、皆始末して来たぜ?・・・だから、村を脅かしてた奴らは、さ」
 つまり、皆殺しにしたわけではない、と。
 が、妙に含みのある言い方だった。“村を脅かしていた蟲達は皆”始末した、とーーー では、“まだ”村を脅かしてまではいなかった蟲達のことは? そういう含みなのがろうか、これは。故意に取りこぼして残して来たというのか、この男は? 小さな漁村の浜に腐れ病を引き起こしたとんでもない蟲の一部を?
 戦慄して、征士は、
「そんな危険な蟲を残して来たのか、お前は!」
「依頼を受けたのは、『村の惨状をなんとかして欲しい』ってことだったからな。それ以外は、別に頼まれてねえし」
 と、その蟲師は、淡々と言ってのけた。
「浜防腐は腹一杯食事が出来たし、とりあえず村は安心、俺は仕事に見合うだけの報酬を貰ったし。何か問題あるか?」
 はやくも、その流しの蟲師は、そんな内幕まで征士に漏らしてしまったことを後悔しているようだった。それは、そうだろう。こんな話しを・・・ この男の、蟲師としての信用に関わる問題だ。
「それでは、退治していない腐拿蟲(ふなむし)が、また魚網や船を食い荒らしに出て来てしまうのではないのか? そうなったら、どうするのだ!」
「その時ゃまた、俺ら蟲師を呼んで貰えばいい」
 そう言って、その蟲師は、接客用笑顔とでもいうのかーーー例えば、道端で店を広げている時には、おそらく、こんな表情を浮かべて売り込んでいるのであろう、人好きのする笑顔を浮かべて見せた。
 征士は、絶句した。
 確かに、征士も、皆殺しにするのは好かないがーーーこれでは、詐欺ではないか。
 そんな反応にも慣れているのか、その蟲師は、くすっと笑って、
「もともと、あの村の誰かが、代々『入っちゃいかん』といわれている霊山にわざわざ踏み込んで、付けて戻った蟲なんだ。里山辺りまで出て来てた分は始末したんだし、また出て来たら・・・というより、そりゃあ、わざわざまた付けに入って、案の定、連れて出て来たってことだよな。そいつを退治する時ゃ、また別料金を貰っていい、と思うがね、俺は」
 が、不審そうに、征士は言った。
「その村の者の中に、禁を破った者があったなどという話は、先ほど聞いた話の中にはなかったと思うが」
 思う、などといったものではない。『筆記者』である征士は、この蟲師が先ほど語ったすべてを、一言一句まで違えずに皆覚えていた。巻物に記した後には、巻の何番の何章・何行目までも記憶する。それもまた、『筆記者』に必要な能力のひとつだった。
 征士は、詰問した。
「すべて話してくれるのでなければ、困るのだがな。お前自身も利用していることとは思うが、この『狩房文庫』は、蟲封じの書であるのと同時に、蟲師たちの為のの、蟲封じの指南書でもあるのだ。
 それとも、村の者に聞いたのでもないのに、そうと分かると言うのか、お前には?」
「分かるさ。高地でしか育たない蟲なんだから」
 と、こともなげに、その当麻という蟲師は言った。
「すっかり育った奴ならともかく、ある程度の標高より上でなけりゃあ幼生は育たないし、そもそも繁殖もしない。
 ふーん。あんたに必要なのは蟲を殺す話だというから、ちゃっかり生き残ってる蟲の話なんざお呼びじゃないだろう、と思ってたんだが・・・全部必要なんだ」
「・・・私には必要ないが」
 苦々しげに、征士は答えた。
 そんな征士の瞳の奥をさぐるように見つめながら、その当麻という蟲師の視線は、時折見るとはなしに、征士の袴の裾から覗く墨色の下肢の辺りをさまよっているように感じられた。なんとなく、征士も、その辺りに視線をからめながら、言い綴った。
「しかし、『狩房文庫』を読みに来る他の蟲師達には必要だろう」
 そう考えてーーーふと、征士は気がついた。
 今まで話を聞いてきた蟲師達も皆、この当麻のように考えていたのかも知れない。征士に話していくのは、『禁種の蟲』を封じる呪(しゅ)となるような話に限っていただけで、あの場では話さなかったが、殺さなかった蟲たちの話もまた皆、幾話も持っていたのだろうか?
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