ギン化版flat蟲師捏造話

□ギン化版flat蟲師1「幼い恋」(P2)
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★注意!−−ーこの話は、蟲師+flat=多重パロ話です。つまり、
@講談社コミックス『蟲師(むしし)』全10巻(漆原友紀先生 著)の登場人物であります、蟲師のギンコとその友人の医家の化野先生が、
Mag GARDENコミックス「flat」2010年5月現在=3巻まで(青桐ナツ先生 著)の登場人物であります高2男子の平介とその従兄弟の園児の秋みたいな関係だったら・・・?
と妄想してみました♪な多重パロの二次創作話です。
Aいずれは、ギンコ×化野」な仲へと育つ予定です。
 以上の要素を好まない方は・・・決して見ないで下さい。  

ギン化版flat蟲師1「幼い恋」

 とある山麓の里へと続く荒れ野原を、大きな木箱のトランクを背負った一人の男が歩いていた。
 目にかかる程のざんばら髪は、老人のように真っ白だった。
 が、やや猫背気味に背筋を丸めたその姿は、どこかチンピラめいていて、そんな年輪
を感じさせるようなものではなかった。
 しっかりと身の締まった骨太な細身の体躯も、大股でゆったりと歩くーーーが、いざとなったら逃げ足の速そうな軽い足取りも、細く骨ばってはいるが、決して節くれ立ってはいない器用そうな長い指も、その男が、まだ少年の域を脱したばかりの若さであろうことを示していた。
 尻が隠れるくらいの長さの白い木綿の貫頭衣に薄茶色のズボンに革靴。未だ着物姿が主流な山間の村々をつなぐ道筋を、そんな、洋服としても珍しい簡素な筒袖の上下衣姿で歩いている。
 右の目は碧。
 が、異人の顔立ちではない。
 左目は闇。眼球のない、その空洞の眼窩には、『トコヤミ』と呼ばれる『蟲』が巣食っていて、暗闇の中でも見ることが出来た。
 この青年の名は、ギンコ。
 蟲ーーーという、われわれとは異なる生命の在り様でこの世に存するモノたち。そんな、見える者にだけ見える蟲と人とが出会って起きた様々な障りを解き明かし、取り除くのが、ギンコたち『蟲師』の仕事だった。
 が、まだまだ蟲師としての経験も知識も乏しいギンコには、蟲祓いの仕事だけで食べていくことは出来ない。いや、ギンコのような駆け出しでなくても、旅を棲みかとする『流し』の蟲師は、たいがい、何かの行商のような副業を持っていた。例えば、山奥で、主に蟲師相手に商売している薬草屋から、蟲祓いの薬草や、平地では時期はずれな頃合いにも扱われている漢方の生薬などを仕入れて、他の蟲師たちや町医家らに売りさばいたり、いささか胡散臭い薬や珍品、あるいは、蟲がらみの奇妙な品を、そういったシロモノを好んで集める数奇者や好事家連中に売りつける、といった類いのものだ。
 ギンコにも、そうした副業があった。中でも、彼の懐を確実に潤してくれるのが、この山間の里に住む医家夫婦に頼まれる薬の買出し仕事だった。かつて、『ギンコ』という名前?のほか一切の記憶をなくして、突如この山里に現れたギンコを、一時期、親代わりになって育ててくれたスグロという蟲師の口利きで手に入れた仕事で、貴重な定期収入だ。
 それは、ギンコが、ひとつ所に留まれば、半年でそこを蟲の巣窟にしてしまうであろう『蟲を寄せる体質』である、と分かった時に、この里にも他所にもそんな不具合を引き起こすことのないようーーー齢、十のギンコでも、旅に安住の住処を得られるように、と考えた生業のひとつだった。
 その道筋は、旅慣れた大人の男にとってもしばしば辛く難儀なものであったが、ギンコは、見た目、ゆったりとした、大股のその歩きで越えてきた。
 一番古い記憶は十の頃。
 どことも知れない真っ暗な所を、一人で歩いていた。何も視えない。手探りで歩き続けていると、そのうち月が出た。真っ白い偽物じみたその月が沈んでも、また昇ってくるのは月ーーーそんな所を長いこと歩いて、ある時、ようやく陽の昇る所に出た。
 その陽のありがたさは、今でもよく覚えている。
 ふと、立ち止まり、額の汗を拭う。振り仰げば、済んだ青い空から眩しい陽の光が降り注ぐ。目を閉じて、瞼ごしに熱いお日様を見上げる。暖かい。おのずと口の端に笑みが浮かんで、ギンコは、開いた目線の先を行く手の山道に戻した。そう遅くならないうちに、件の医家先生の家へと辿り着けそうだった。ギンコは、また歩き始めた。

*  *  *

 里へ下りる前に、ギンコは、山中に棲むスグロの庵に、まず、寄った。いつもの道筋だ。
 玄関口の引き戸が開け放たれている。スグロは、家の外に居るが、どこかその辺の近くにいるのだろう。
 板の間に木箱のトランクを下ろすと、ギンコは、土間の隅の水がめから、大きな柄杓にたっぷり水を汲み上げた。連日、快晴だった天気のせいで、道中、歩きやすくはあったが、のどがカラカラだった。
 ごくごくごく、と一気に飲み干す。
 足元に丸い影がさして、人らしき気配を後ろに感じた。はあ、と満ち足りた息をついて柄杓を下ろしながら、ギンコは、
「スグロ? ただいーーー 」
 ま、と言おうとして、不思議と小さな気配に、ギンコは振り返った。
 子供だ。
 右の目に大きな片眼鏡をつけた子供が、そのつぶらな瞳で、じぃっとギンコを見つめていた。
(あ?)
 ギンコも、暫し、その子供をじっと見つめてしまった。
(なんだ? って言うか、誰だ、このガキーーーいや、お子様は?)
 一瞬、昔のギンコと同じくスグロに拾われたクチかと思ったが、そんな子供が、片眼鏡だなんて高価なシロモノを付けてる筈はない。
 そんな『お子様』が、なんで、こんなところにーーー
 と考えて、同時に、その子供が、じぃっと無表情にギンコを見つめている理由に、ギンコは思い至った。
 この子にとっては、ギンコの方がーーー怖い、とまでは感じていないようだが、警戒するべき、見知らぬ闖入者なのだ。
「ああ、いや・・・・・・」
 と、口を開いたものの、ギンコは、言い惑った。
 居着けぬ居候の身を、何と説明すればいいだろう?
「あー・・・別に、俺はアヤシイ者じゃない。ギンコという。以前に、ひと月ばかりここで世話になってたもんだ。で、あんたは? 何でここに居るんだ? 名前は?」
 子供は、じぃっとギンコの姿を見つめながら、
「・・・あだしの」
「あだしの。ほうーーー 」
 突然、がくり、とその子供は土間にしゃがみこんだ。
「うおっ? どうした!」
 とっさに、子供の両肩を掴んで、ギンコは、子供の体を支え起こした。
「大丈夫か!」
 膝をついて、正面から子供の顔をのぞきこむと、子供は、びっくりしたように、ギンコを見つめて、いぶかしげに小さく首を傾げた。
 いきなり、しゃがみこんだのは、別に、具合が悪くなったからではなかったようだ。
(なんだ)
 ギンコは、ホッと息をついた。
「あ、悪い」
 小さな両肩をきつく掴みあげていた手をゆるめる。
 子供は、何事もなかったように、ホトリと目線を地面に落とすと、ギンコの手を肩に乗せたまま、そこにしゃがみこみ、片手を膝に乗せて、もう一方の手で、カキカキと土間の地面に文字らしきものを書き始めた。
 いっちょ前に、漢字を書いているようだ。
「あー? 化・・・野?」
 というのは、確か、ギンコの運び屋仕事の依頼主である、あの夫婦者の医家先生らの子供の名前と同じだ。
 いや、正確には、「八犬伝」の美剣士ーーーあー、いや、犬士だったか?ーーーの名前を貰って名付けた筈だったのに、人別帳に文字を違えて書かれてしまって、あろうことか、念仏寺にされてしまったのよ、縁起でもない! ウチは医家なのよ? とたがね先生が怒ってたっけーーーしかし、そんな、自分らの間違いだというのに、「規則なので、書き直しは出来ない」と突っぱね通した役人も、大したもんだ、と思うーーーまあ、なんにしろ、化け野原が毛の野原になったところで、そう違わないんじゃないか?とギンコは思うのだが。
「ケノちゃん?」
 と問うと、子供は、じぃっとギンコを見つめて、こっくりと大きく頷いた。
「ケノ。あだしの」

*  *  *  *  *

 戸外でものを片付けるような物音がして、子供は立ち上がり、土間の入り口の方を振り返った。じきに、この庵の主であるスグロが、土間の入り口に姿を現した。
 スグロは、ギンコのように蟲を寄せるような体質ではない。が、蟲が見える性質だったので、この実り豊かで、ゆえに蟲もまた多い、いわゆる『光脈筋』の里から、蟲たちによる障りを取り祓うために、流しの蟲師について修行をし、蟲師になった。今はこの里に定住している、里のお抱え蟲師だ。
「おう、毛野ちゃん、ただいま」
 スグロは、にっこりと子供にうなずいて見せると、ギンコに、
「よう、ギンコ。遅かったな」
「よう、スグロ」
 土間に膝をついたまま、ギンコも挨拶を返した。
「なあ、この子さあーーー 」
「なんだ。まだ、自己紹介も済んでねぇのか」
「あー、いや・・・まあ、一応済んでんだけど、この子さあ、里の医家先生らの子供か?」
「おう」
 ほう。ちゃんと、先生んとこの子供の名前、覚えてたか。
 と言いたげなスグロの微笑みに、ギンコは、そりゃ・・・ねえ?といった表情で返す。
「あだしの、って自分で言ってるけど?」
「そっちの呼び名が気に入ってるらしいぞ」
 スグロが、またにっこりと笑いかけるが、子供は、そんなスグロの笑顔を、ただ、じぃっと無表情に見つめ返しているだけだ。
「念仏寺が?・・・分かってんのかねえ、意味?」
 ギンコは、首を傾げて、子供の顔を覗きこんだ。
 子供の目線が、またギンコに戻って、子供は、また、じぃっとギンコを見つめた。
「分かってねえだろう」
 スグロは笑った。
「んー? いやいや、知ってるさ。なあ、毛のちゃん?」
 子供は、スグロを見上げて、こっくりと頷いた。
(ああ)
 と、ギンコは安堵した。
(やっぱ、声も出さねぇほど警戒されてた、って訳じゃあねぇんだ。今も表情変わんねぇし・・・さっきも、ちゃんと聞いてたし、返事もしてたんだよな)
 しかし、と思う。
(本当に、喋んねぇ子だな。声が出ねぇって訳でもねぇのに。喋り慣れてない、のかねぇ?)
 スグロは、そんなギンコの表情を眺めやりながら、
「毛野ちゃんはな、俺やお前なんかより、よっぽど学があるぞ」
「ああ」
 と、ギンコも頷いて、
「名前、漢字で書いてたもんな」
 そう受けて、目の前の子供の顔を覗きこむと、さぁーっと子供の頬に赤みがさしてきた。薄い紅色の唇が小さくひらいて、子供は、いやいやをするように身をよじって目線を伏せた。
(あ、照れた)
 思わず、ギンコも、口の端を上げて微笑んだ。
 小さな『あだしの』が、頬を真っ赤に染めて、そのまま、もじもじと顔を上げられずにいる様を見て、見ているギンコの方も、ついつい、さらに笑みがこぼれる。
 スグロが、にこにこと慈愛に満ちた笑みを浮かべて、そんな自分らを眺めているのに、ギンコは気がついた。
 子供の両肩から手を離すと、ギンコは、立ち上がって、
「で、何で、ここに?」
 と問うと、スグロは、
「いや・・・なぁ。先生らは忙しくて、一緒に居てやる間がねえんだと」
「子守り娘とかーーー 」
「・・・・・・」
 なにか、子守り娘では不足な事情があるらしい。
 が、蟲師の住み家なんて、触っちゃならん物やら薬草だらけで、むしろ、里の家で、一人で留守番してるより、よっぽど危ないんじゃあないだろうか? それとも、医家の住み家も、別の触っちゃならん物やら薬だらけで、同じなのか?
「しかし、あんただって、今さっきまで居なかっただろう。って言うか、日がな、そこの里やらそこらの山見て回ってたりして、居ねぇだろう」
「おう」
 けろりとして、スグロは頷いた。
「しかし、今日はお前がいるだろう」
「あ?」
「今日は、お前がここへ着く日だったと思ってな」
「え、俺!?」
 思わず、声がでかくなって、ギンコは、慌てて、口に手を当てた。
 あわてて、傍らを見下ろすと、『あだしの』は、また無表情に戻ってしまったあのつぶらな瞳で、じぃっとギンコの顔を見つめていた。
 その表情の変化に胸をつかれた。
 反射的に、ニッと笑顔を返す
(いやいや。お前が嫌だとか、そういうんじゃあ、全然、ねぇから!)
 と思いを込めて、目で訴える。
 化野の瞳に、また、やわらかな光が戻った。ギンコは、ホッとした。
 そんなギンコを眺めやりながら、スグロは、満足そうに頷いて、
「お前、今夜は、家に泊まっていくだろう?」
 そりゃ、勿論、と頷くギンコに、にっ、とスグロは片目をつぶった。
「なら、まあ、ここで一休みしてろや。先生らは、どうせ、まだ忙しい盛りだろうし、薬は、先生らが毛野ちゃん迎えに来た時に渡して、お代を貰うといい」
 ぽん。
 と、スグロはギンコの肩を叩いた。
「頼りにしてるぞ」

*  *  *  *  *

 腹を減らして来たギンコの為に早い夕食を終えると、スグロは、「もう、ひと周りしてくる」と言って、また外へと出かけて行った。
 後の片付けを引き受けて、ギンコは、化野と一緒に、庭の隅を流れる小川で椀や箸を洗った。
 小さな化野は、ここへ来たばかりの十の頃のギンコより、ずっと何でも出来る子なようだった。今のギンコのようにおおざっぱでもなく、茶碗ひとつにしても、ただ笊で水切りして乾くのを待つのでなく、きちんと水気をふき取って、棚の椀の重ねにきちんと収めてゆく。
 やがて、片付けも終わって、ギンコは、化野を促して、庵の中へと戻った。高い山の中腹は、一見、日が落ちるのが遅いが、思いのほか冷え込みは早く来る。
 程よく蟲除けの香がけぶっている板間に上がって、ギンコが暖かい囲炉裏の脇に腰を下ろすと、化野は、また、じぃっとギンコを見つめた。
(おっ?)
 と、何となく、ギンコは身構えた。
(こいつは、『俺が一緒に、何かして遊んでくれる』と期待されているんだろうか? あー、いや、観察されてんのか、俺が?)
 ギンコが悩む間に、化野は、フッと目線を上げると、庵のあちこちを眺めはじめた。キラキラと目を輝かせて、そこいらの色々なものをじぃっと見つめまくる。
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