蟲師&サムライトルーパー捏造話

□征士&当麻版 蟲師『筆の海』ネタ(P3)
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当征版 蟲師
   CAST 当麻・・・蟲師
        征士・・・狩房家3代目筆記者

 蟲師の名門に名を連ねる狩房(かりぶさ)の家に生まれた征士の主な仕事は、己が身の内に巣食う『禁種の蟲』と呼びならわされる蟲を、書の中に封じて地下の穴蔵に閉じ込めることであった。
 その昔、世界を滅ぼす力を持つというその蟲を、狩房家の先祖がその身に封じ、世界を救ったのだという。が、先祖のその人は、わが身に蟲を封じたことで力つき、その時身に宿していた赤子の体にも滅し切れなかったいくばくかの蟲を残して、死んだのだった。その後、狩房家には代々、体に蟲を宿した赤子が生まれ、その、先祖の成した荒仕事の成就を引き継いできたのだという。
 その三代目の蟲宿しである征士は、腰から下が動かない。否、そこに今も蟲が息づいているように、生の営みは体内ではなされているのだが、自分の意志では動かせないのだった。
 蟲と一体化しているその部分は墨色に変色していた。その蟲を封じる為の呪(しゅ)となる蟲殺しの話を巻物に記す時には、その墨色の一部が文字列と化して、征士の全身を巡るのだ。それを、指先から紙面に吐き出して、書の中に封じていく。そうして、本当に少しずつだが、墨色の痣は減ってきてはいるのだった。が、たぶん、征士の代でも、この蟲を封じ終えることは出来ないだろう。ならば、せめて、次の代の者には蟲を祓い終えた後の人生があるように、と願って、征士は蟲殺しの話の『筆記』を続けている。
 ただ。
 最近、酷く気が滅入るのだ。そんな、蟲殺しの話ばかりを聞かされていることが。
 人の生活に害を及ぼすものは、退治しなければならぬのは分かる。が、そうしてーーー人に仇なす蟲とは言え、それらを皆殺しにしてしまう話を、ほっとしたように笑顔でーーーあるいは、完膚なきまでに叩き潰し、滅し尽くしてやったと嬉々として語る姿を見ていると、征士は、ある種の薄寒さを感じずにはいられないのだ。もしも、征士ひとりを殺すことで、この身の内に棲む『禁種の蟲』を滅せられるものなら、この蟲師たちは、ためらわず征士を殺すのに違いなかった。そうして、ほっと安堵の笑みを浮かべたり、悪鬼のような蟲を殺してやったとーーー彼らが殺したのは人である征士をも、であるのにーーー嬉々として人に語るのだろう。
 同じように、町ひとつを皆殺しにするだけでそう出来るものなら、やはり、彼らはそうするのではないだろうか?
 その理由が、恐れや怯えからくるものでも、征服欲や殺戮の喜びに根ざすものでもなんら代わりはないように、征士には思われた。平気で他の命を奪う、ということには。
 一度だけ、呪とする蟲殺しの話を終えた蟲師に対して、そんな想いを口にしてみたことがある。上手くは伝わらなかったのかもしれないが。
『殺さずとも済むのではないか・・・と?』
 必死の表情で頷いて見せた幼い征士に、その蟲師は言ったものだった。
『・・・失礼ながら、それは実際に蟲と対峙した者でなければ言えぬことかと』
 その答えを聞いた時、たぶん、この先どの蟲師にそれを聞いても、返る答えは同じだろうと思ったのだった。
そう、言われてしまえば、征士にはもう言える言葉は何もないのだ。この男のように、冷笑はしないかもしれない。が、『殺らなければ、こっちが殺られる』と青くなって言う者や、言外に、なぜ、蟲を殺してはいけないのか?と不思議そうにーーーあるいは、面白そうにーーー問いかけてくるであろう者・・・日頃の話し方を訊いていれば、だいたい想像がつくと思った。
 ならば、訊いてもせん無いことだ。
 そう思い切ってもう久しいというのに、つい、こんなことを言ってしまったのは、その蟲師の、来るタイミングが悪かったとしか言いようがなかった。そんな、古い過去の夢など見たばかりでなければ。



     (二)



「ーーーでは、その村を脅かしていた蟲は全て喰わせてしまったというのか、その、お前の放った浜防腐(はまぼうふう)という蟲に?」
 いつもの丁寧な言葉遣いも忘れ、荒ぶった口調で、征士は、そう問うてしまったのだった。いや、語尾は問いかけの形ではあるが、その口調ははっきりと非難していた。なぜ、その蟲を皆殺しにしたのか、と。
 言ってしまってから、しまった、と思ったものの、後の祭りだった。ならば、いっそ、と開き直って、どんな答えが返るか、とその日の話し手の蟲師の目をじっと見つめて返答を待つ。『睨み据えているように見えるから、そんな風にじっと人を見つめてはいけない』と周囲の者たちにいつも言われているのだったが、かまうものか、とこの時は思った。随分と、粗暴な心持ちになっていたものだ。
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