ギン化版flat蟲師捏造話

□ギン化版flat蟲師2「ぼたん餅」(P7)
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ぼたん餅2
 その、時に遠く地中深くまで沈み、また浮き上がり、或いは他の土地へと移動する光脈の『流れ』の変化を、彼ら=ワタリは把握していて、それを記した最新の『光脈図』を売るのを、主な生業にしている。
 そして、そうやって光脈を見回る中で見聞きして得た『噂』も、彼らの手にかかれば『売れる』情報になるのだった。
 ギンコの『我が家』があるこの山も、その光脈の巡る土地=『光脈筋(こうみゃくすじ)』なので、彼らの通り道だった。道すがら、この山の『守り人』である蟲師(むしし)のスグロの家に、彼らは必ず立ち寄り、互いの知り得た情報を交換してゆく。山の守り人相手の情報提供は、無償でなされているようだった。山の守り人らもワタリも、共に、光脈筋というこの特殊な土地に障りが起きないようにと働いているのだ。
 イサザも、十の頃にはそれについて歩いていたのだそうで、ギンコがこの家の養い子になった最初の年からの友達だった。
 『光脈と、蟲を寄せる身の者とは、長く共に在ると、互いに障りが起きる』というので、この流浪の民の仲間に加わることも出来なかったギンコだったが、このイサザとは、この家や―――旅先でも、暫し光脈筋を通るような道に入れば、案外ちょこちょこと出くわして、ついでに『ちょっと、晩飯作るの手伝えよ』などと言われて、イサザに彼らの布屋へと連れられて行っては、水汲みや重い石を運んで竈を作るのなどを手伝ったりして、そのまま温かい食事を貰って共に寝泊まりした。
 子供の頃は、イサザの方が2、3年上、と思っていたが、そうでもないのかも知れない。あの頃、ギンコがチビだったのは栄養が悪かったせいかも―――育ってからは、ギンコの方が上背が高くなってしまった。
 イサザは、きょろきょろと中を見回して、
「あれ?」
「あ? どうした?」
 と聞くと、イサザは、目をくりくりさせて、
「お子ちゃまがいる、って聞いて来たんだけど」
「ああ。これから来る」
 イサザは、ニヤニヤと笑って、
「ギンコ、子守りしてんだって?」
「いやいや」
 と、ギンコはかぶりを振った。
「子守りってほど、何かしている訳じゃ…」
 ぷっ、とイサザは吹き出した。
 ギンコは、変わらず、平易な口調で、
「ただ、俺が帰って居る時なら、スグロが留守をする時間帯にもここに人が居るからってんで、ここでも預かることにしたんだと」
「いやいや、何もしてねえ、ってことぁねえだろ。居眠りしてる間も、ちゃあんと子供を抱えてたんだって聞いたぞ? スグロが帰ってみたら、毛布被ったお前の腕の中から、まるでサエズリガイみたいに目をクリクリさせながら、こっちを見たって」
「あー…」
 と、ギンコは、ぼりぼりとうなじを掻いて、
「毛布抱えてたから、あの子も眠いのかと思ったんだよ。しかし、あの子用の毛布を俺に掛けてくれたら、もう余らんだろう。だから、あの子には俺ごと掛けたんだ」
 イサザは、げらげら笑った。
「あはは、ちゃんと子守りしてるんだ」
「いやいや」
 ギンコは、また、ぼりぼりとうなじを掻いて、
「しかしなぁ、俺よりいい子守りなんぞ、いくらでも居るだろうに」
「お医家の子なんだって?」
「そう。あの、たがね先生の子供だぜ」
「だってな。化野(あだしね)念仏寺の化野ってのがホントに本名なんだもんな」
「読みは、ケノちゃんだ」
 まあ、コレも、「『噂』も飯のタネ」ってくらいなワタリのイサザなら知っているだろうが、一応、ギンコは言った。
「なあ、みんなアダシノって呼んでんのか?」
 と、ギンコは、イサザに問うた。この里の皆だけなら兎も角、流浪の民ワタリの面々までが?
 イサザは、頷いて、
「だって、本人が皆にそう言うからさあ。ケノちゃんって呼んでるの、たがね先生だけだろ。老先生も若先生も、もう皆アダシノって呼んでる。人別帳のふりがなは間違われなかったから、ちゃんとケノちゃんなのにな」
「そうか」
「お前こそ、もしかして、何にも知らねえの?」
「何を?」
「お前の方がいい子守りだ、と思われてる理由」
「あ? 知らんよ。今回は、若先生に頼まれた薬の急ぎ仕事だったんで、山ん中突っ切って来たから、途中、この辺の里には全く寄ってねえんだ。仕入れて来た薬も、アダシノを迎えに来た医家の見習いの先生が中身を検めて(あらためて)、金も払ってってくれたから、俺は、ここへ帰って来てからも全く里には下りてねえんだ。
 そもそも、昨日帰って来たら、もう居たんだよ、ここに、一人で。とりあえず、挨拶って言うか自己紹介?し合ってたら、やっとスグロが帰って来て、『今日は、お前が着く日だった、と思ってな』って」
「それだけ?」
「あー… 」
 と、曖昧に頷いて、ギンコは、
「『お前と俺だって、最初はそんなもんだったろう?』って言われたら、なんか…それ以上はちっと訊きづらくてな」
 と、たぶん二十歳前な筈の若さで総白髪の己が頭と、碧色の右目を指差して、ギンコは、
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