蟲師捏造話 3
□イタズラか、ご馳走か(P2)
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イタズラか、ご馳走か 2
と言って、ギンコは、ほんのり薄緑色に光る小さなキノコのようなモノも分けてやった。
「そうするよ。ありがとな、ギンコ」
と、もう一度礼を言って、イサザは、金平糖の包みと小さなキノコモドキを懐に仕舞い込んだのだった。
*****
前に、この里を出てから、きっかり30日後。
万聖節の夜に、ギンコは、例のセンセイ―――この小さな漁師町の町医家で、蟲好みの蒐集家としても名高い化野先生のところへと、またやって来たのだった。
すっかり、夜になってしまったが、兎にも角にも、今日は、まだ洋暦の10月31日だ。
ポケットに手を入れて、今一度、そこに用意した珍品の蟲製の蜜菓子が入った小袋があるのを確かめると、ギンコは、化野家の玄関脇の柱に据え付けられた「どあ・のっかー」なるものを二拍、打ち付けた。
「は――い」
懐かしい声のいらえが返って、次いで、トタトタと軽い足音が、家の居間側の奥から近づいて来た。
やがて、カラリと引き戸が開いて、満面の笑みを浮かべた化野が、
「イタズラか、ご馳走か」
まさに今言おうとしていた台詞をそのまま言われて、ギンコは、まじまじとその唇を見つめてしまった。
いつも、蜜を塗っているように、艶やかに潤っている、綺麗な薄紅色の化野の唇。瞬時に、イサザらの「大人語訳」が思い出されて、かぁッと顔が熱くなる。
思わず、
「ご馳走」
と、ギンコは口走ったのだった。END