蟲師捏造話 3

□ギン化眼で読む『日蝕む翳』-1 縁側のお天道さん(P2)
2ページ/2ページ

縁側のお天道さん 2

『人や里に良くないモノもいるなら、ソレは良くないモノだと分かっていた方がいいだろう。その方が、避けようとすれば避けられるモノなら、気をつけて避けることが出来るだろう?』
 と、化野の論理は、明快だった。
 こんなに見たがっているのだから、ちょっとの間でも、蟲が見られたらいい。
 と、ギンコも願っていたのだが―――
 お医家の先生のくせに、何の衒い(てらい)もなく、蟲を好み、蟲を見たがるこの男には、蟲気を帯びる隙など、これっぽっちも無かったらしい。
 そのことに、ギンコは安堵する。
 おぼえず、口の端を上げながら、ギンコは言った。
「そりゃ、何より。何事もねぇのが一番だ」
「まぁ、そりゃそうだが……」
 と、はぁ、と溜め息をつきながら、化野も、縁側に腰を下ろしたギンコの傍に、また胡座をかいて腰を下ろした。
 今ひとつ、案じていたことを、ギンコは問うた。
「多少、患者が増えたりしなかったのか?」
「ん? まぁ……」
 と、化野は、顔を曇らせて、
「日が戻った後に、日の光が恐ろしいと言い出す者や、夜眠れんと言う者がいたが」
 それならば、文に記した通りの対処をすれば、良かった筈だ。ギンコは、安堵して、
「で、治ったのか」
 ところが、化野は、困ったように顔を曇らせたまま、
「いや、薬はやったんだが、どうも、今ひとつ……」
(あ? 効かなかったのか、あの対処方法が―――?)
 と、一緒どきりとしたが、すぐに、違う、とギンコは気がついた。
「……お前、俺が送った文、読んでねぇだろ」
 ふぅ、と蟲煙草の煙を吐いて、ギンコは、
「そりゃ、どっちも蟲が原因だ。一緒に送った包みの中の薬で、治る」
 がたっ。
 と、弾かれたように立ち上がると、化野は、奥へと駆け出した。すぐに、ギンコが送った薬の箱を箱を抱えて戻って来ると、そのまま、縁側の沓脱石の上にあった履き物を引っかけて、走り出す。
 言われて、すぐに飛び出して行けるところを見ると、やっぱり、あの文を読んでいなかった訳ではないようだ。たぶん、ただ―――医学校で医術を学んできた医家先生の常で、『夜眠れん』と言われれば、まずは眠り薬を処方し、『日の光が恐ろしい』なんぞという奇天烈な症状を訴えられても、即『蟲の仕業』とは考えずに、心穏やかになる薬でも処方しつつ、医術書を紐解いていたのだろう。
(蟲好みの、数奇好き化野先生なんぞと言われていても、やっぱり、こいつはお医家の先生、なんだよなぁ)
 そして、蟲師のギンコが、『蟲が原因だ』と教えれば、すぐに、蟲下しやらの入ったあの箱を携えて行って、対蟲用の対処をしてくれるような医家先生だ。
(もう、大丈夫だな、ここは)
 と、ギンコは思った。
 この町に蟲師はいないが、今少し、ギンコが居続けなくても、化野が、ちゃんと、あの文と薬箱を使って対処をしてくれる。そして、それでも困った時には、ギンコに文をくれるだろう。
 よっ、と木箱のトランクを背負い上げながら、ギンコは、縁側から腰を上げた。
 駆け出して行った化野が、ハタと足を止めて、庭の外れで、くるりと振り向いた。
「ちょっと、待ってろよ。後で、日蝕の間、何してたか、聞きてぇからな」
 が、
「いや。もう行くよ」
 と言って、ギンコは歩き出す。
「何――!?」
 慌てたように、こちらへ向き直った化野に、いつもの平易な口調で、ギンコは、
「この後、その話をしに行かにゃならん所があるんでな」
 そう言ってやったら、仕方なさそうに、化野の足もまた、町ヘ向く。
 それでも、何だか悔しそうに、化野は、叫ぶような口調で、ギンコに言った。
「少しぐらい、いいだろう。待ってろ!」
 その声に、背中を向けて、ギンコは、ヒラヒラと片手を上げて振った。
「また、いつかな―――」
 一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後、自称『人徳のある』町医家が、彼の患者らのもとへと駆けて行ったのが、気配で分かった。
 ふぅーっと、ギンコは蟲煙草の煙を吐いた。
 ふかした蟲煙草の煙が、蟲気を探して宙を舞い、空へと四散して行く様を眺めやる。
(やっぱり、蟲が見えん性質でも見えるようなもんじゃねぇと、ダメだな、化野先生にゃ)
 流しの蟲師の旅は続く。 END
作品後記
 ギン化眼で読む『日蝕む翳』その1です。
 あれ、ギンコ、化野先生に『日蝕み』の゙核゙の欠片売らないの?→あぁ!と思ったことから、書きました。
 ギンコ×化野と思って読むと、漆原先生作の『日蝕む翳』もこう読める!というGINCAの脳内解釈版『日蝕む翳』(の一場面)です。(縁側の柱にもたれて座る化野先生の姿勢も、ギン化眼で見ると、ほら!こんなにもギンコを待っている!)
 という訳で、Storyパクリの、ネタバレ有りです。*ギン化眼は、色眼鏡です。月刊アフタヌーン2014年1&2月号をご覧になって、正しい解釈をご確認下さい。m(_ _)m


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ