夢小説
□笑顔を見せて
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…………朝か…
光が差し込むことのないこの部屋で、体が覚えているのか時間になると目が覚める…。
それと同時に絶望感に毎朝包まれる…。
いつもと同じ朝…
ずっと変わらない
これなら死んだ方がまだマシ…
ベッドから身体を起こすと、シルクの白地に牡丹の模様のガウンに手を通す。
もうすぐ春だというのに、まだ朝は冷え込む空気に身震いをする。
「椿様…おはようございます」
『……お京.....おはよう』
部屋に入ってきたのは、幼き頃から椿に仕える側近兼忍者のお京。
「…朝のお仕度を…」
お京の手に持たれた服を見つめる。
『……うん』
豪華にあつらわれた鏡台の前で、丁寧に長い栗色の綺麗な髪がすかれていく。
真っ白なシルクのロングワンピースが、椿の身に纏わられる。
誰もが息を呑んでしまうほどの美しい顔には、薄化粧が施され、お決まりの赤い口紅がふっくらとした唇へと落とされる。
………能面みたい。これは全て私が望んでいるものじゃない。
「今日も大変お美しくおられます…」
鏡の中に映る自分と同じ顔をした人間を見て、自分なのに他人に見える。
.....…何が美しいの…?
鏡に映る自分を凝望していると、扉をノックする音が聞こえる。
「失礼致します。団長がお呼びです」
『…………』
何も答えない…いや、答えられない椿に代わってお京が返事をする。
「….....わかりました。直ぐに向かいます……。さぁ、椿様、団長がお呼びです。参りましょう…」
『….....うん』
差し出されたお京の手を暫く見つめ、その手を取り部屋を出る.....。
あぁ….....また一日が始まる….....