夢小説

□笑顔を見せて
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私は人形だ。

着たくもない服を着させられ、したくもない化粧をし、一人で歩くことさえ許されない。
ここでは歩く時は必ず誰かの手を取らなくてはならない。


いつからこうなったのだろう…もう長いことこの生活を続けているからわからないな……


そんなことを考えてながら歩いて行くと食堂に着いた。
すると、明るい声で呼びかけられる。

「椿!!!!!!」

その声に思わず身体が怯懦する。


そう……全てはこの人のため…
満面の笑みで私にヒラヒラと手を振るこの男……私の義理の兄……神威。


兄妹といっても、血の繋がりはない。椿が幼い頃、死んだ両親に代わって引き取られたのが、神威の父だった。
神威とは一緒に生活していくにつれて、自然と兄妹となっていった。

あの日までは……。

「なにボーッとしてるの?」

ぼーっとしていた椿は耳元で囁かれた声に驚く。

「….....無視しないでね…」

低い声に思わず身体が強張る…。
そんな椿をよそに笑顔で椿の手を引き椅子に座らせる。

「っっさっ!!朝ごはん食べよう?しっかり食べないと闘えないよ?」
『……はい』

吸い込まれそうな青い瞳に端麗な顔立ち。普通の女の子ならきっと色めき立つのだろう…。
でも、椿は知っている…この張り付いたような笑顔の裏には、黒い獣のお面をつけていることを……。

『いただきます…』

用意された朝食を黙々と食べていく。

「今日はうちの団員たちが殺られたって報告が上がってきてるから、攻めにいくよ〜」
『……わかりました』

「んじゃ、また行く時に声かけさせるよ〜」
『….....はい』

お京がやって来て手を差し出す。
「…椿様、お手をどうぞ」

『……うん』


一つ、一つが……一秒、一秒が…………苦しい………
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