夢小説
□ありがとう…
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俺と椿が出会ったのは、アイツ……ミツバが死んでから少し経った頃だった。
ミツバが死んで、俺はより仕事に打ち込んでばかりいた。
いや……アイツを忘れたいからというのが本音だったのかもしれねぇ…。
そんな時、見回りの際にあいつと出会った………
ーーー
「……チッ!!!てめぇーら、こっちが誰がわかってて刀抜いてんのか?」
「おぉ〜これはこれは、江戸を守ってくださるヒーロー真選組さんじゃないか?」
「ヒッヒッヒッヒ……」
最近攘夷浪士がウロついているとの噂がある所を念のために見廻りしておこうと、路地裏に入ったところでばったり出くわした。
こっちとしては、さっさとケリをつけてしまいたいところだったが、相手は八人。
チッ!!!めんどくさいことになったな……応援なんて呼んでる暇はねぇ。8人か……いけるか?
「どうしたんだぁ〜?真選組ともあろう奴が、まさか……ビビってんじゃねーよなぁ?ま、所詮お前ら真選組は幕府の犬だからな〜ハッハッハッハッ!!!」
ブチッ…………
「「「「え?ブチッ…???」」」
「テメェーら、言いたいことはそれだけかぁ〜?なら、いくぜっ!!!!!!!!」
瞳孔全開で青筋を浮かばせ、刀を一気に振り落ろす。
ーーキィィン!!!!!!!!
刀と刀がぶつかり合う音が響く。
「おおおお、おい!!!さっきのは嘘だ!!!だ、だから命だけは!!た、助けてくれ!!!」
八人いた浪士達は、今は先ほどまで大きな口を叩いていた浪士一人となっていた。
「あぁ?助けてくれだぁ?それはできねぇ〜相談だな〜なんせ…俺らは所詮幕府の犬だからな〜???」
返り血を浴びて、黒い笑みを浮かべる顔に凍りつく。
「………死ね」
「グハァァァァア!!!」
最後の浪士が血しぶきを上げて地面に倒れた。
「チッ!!!手間取らせやがって………」
血に濡れた刀を一振りして血を振り払い腰へと収め、煙草を咥え火を点ける。
「………くっっっ!!!」
その瞬間、突然鋭い痛みを感じ、地べたに座り込む。
痛みを感じた腕と肩に手をやるとそんなに深くはないが、傷ができていた。
流れる生温かい己の血に顔を歪める。
斬られたか……
『大丈夫ですか?!?!』
一人の女が青ざめた顔でこちらに走ってくる。
めんどくせぇ……
『………っっっ!!!!』
女は地面に転がっている無数の死体に目を見開いていた。
「………汚れるからあっちいってろ」
女を気にしているフリをしてその場から追い出そうと立ち上がろうとした。
その瞬間、額に感じた温もりに思わず顔を上げると、女がハンカチを取り出して顔に浴びた返り血を拭いていた。
「……おい、なんの真似だ」
『………こんな血を浴びて…外に出たら、また有らぬ事を噂されますよ………??』
「………てめぇのことだ、お前には関係ねぇ…」
女の手を振り払い立ち上がろうとしたら、グイッと腕を引っ張られまた座らされてしまった。
「…っ痛ぇぇっっ!!!!」
傷がある腕を引っ張られ、思わず大きな声を上げる。
『あっ…!!ごめんなさい!!ここも怪我してらっしゃるんですね?!大変…!!!っ血が………』
そう言って女は自分の着物の裾を破った。
「おいっ!!!!なにしてんだ!!!!」
『これで多少は止血できると思いますから……』
女はどこか悲しそうに腕と肩に着物の切れ端を結んでいく。
『……はいっ!!できました』
「……悪ぃな……着物駄目になっちまったな……」
『あ、いいんです…そんなたいしたものではないので……それより、これでもっとお顔拭いてくださいませ…』
そう言って差し出されたハンカチを少し見つめ、直ぐさまそのハンカチを手で押し返す。
「いや、ハンカチまで汚す訳には………って、もうさっき拭いてもらったから汚れちまってるな……」
ハンカチはすでに自分の血が所々に着いてしまっていて、それを見て苦笑する。
『ふふふ…更に汚してもらった方が気持ちいいですから…はい…』
クスクスと笑いながら再度差し出されたハンカチを受け取る。
『それに……いつもあなた方、真選組の皆さんが守ってくださってるのをわかっていますから……』
思いがけない言葉に、ハンカチで血を拭っている手を止め、顔を上げる。
「武装警察だって囁かれてんのにか?」
苦笑いしながら意地悪く言い返せば、なぜか嬉しそうに小さく笑う目の前の女。
『クスクス……えぇ、そうです。私はだからこの街が更に好きになったんですよ?だから、頑張ってください』
そう笑顔で答える女の顔は、血に濡れた土方の目には、はっきりとは表情が見えなかったが、優しい声に本心なんだということがわかる。
『頑張ってくださいだなんて偉そうでしたわね…』
呆然と見つめていると、自分が言ったことが失礼だと思ったのか、急に焦り出すのが可笑しかくなる。
「いや、そんなことないぜ…」
『そうですか?なら良かったですわ…まぁ!!!!大変!!!!』
突然大きな声を出したので、思わず身を小さく震えて驚いてしまう。
『私、用事がありまして失礼させていただきますね?』
パタパタと小走りでその場を立ち去ろうとした。
その足音に顔を向けていると女が突然振り向いた。
『お名前……教えていただいてもよろしいですか?』
「……真選組副長…土方十四郎だ」
『副長さん……では、失礼いたします』
丁寧にお辞儀をした女は足早に去って行った。
あ………名前聞くの忘れたな…
手当された腕に巻かれた着物を見つめる。
とりあえず、この報告も兼ねて屯所に連絡しねーとな……
つか、あの女これから人と会うのに着物の裾破けてっけどいいのか?天然か??
ーーこれが椿と俺との最初の出会いだった…。