世界一初恋

□ずっと側に
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バレンタインなんてもう縁がない行事だと思っていた。

しかし今、俺は桐嶋さん家でひよが作ったチョコケーキを堪能している。
…のはいいのだが。
事の発端は桐嶋さんの言葉からだった。


「ひよは誰か好きなやついないのか?」

「もぅパパ!そういうことは聞かないで!」

恥ずかしいのか顔を赤く染める。

「うーん…でも結婚するならひよ、横澤のお兄ちゃんみたいな人がいいなっ」

「は?」


ひよの口から出てきた言葉に俺は思わずフォークを落とす。


隣で笑いを噛み殺している桐嶋さんを肘でつつく。


(…何とか言えよ!)

(さすが俺の子だな)


「うん、ひよ、お兄ちゃんのこと好き!」

ぎゅーっと首に腕を回して来る、どこまでも無邪気なひよ。

まだ肩を震わせてる桐嶋さんに助けろと目で伝える。


「…ひよ、横澤が死んでるから放してやれ」

「え?あっごめん!大丈夫?」

「あぁ…」

「ひよ、明日早いんじゃないのか??もう寝なさい」

「あ!もうこんな時間だ…じゃあ、後片付けはよろしくね!」

「あぁ。おやすみ」

「おやすみ」


ひよが自分の部屋に入ったのを確認し、俺は溜息をついた。


「桐嶋さん、笑うのもいい加減にしろって」

「悪い悪い。さすが俺の娘だなーと思って。横澤みたいな人がいいとはな」

「こんな俺のどこがいいんだ?あんたの趣味もわからんがひよもわからん…」

「ま、ひよには悪いが横澤は諦めてもらわないといけないな…告白はちゃんと断れよ?」

「は!?」

「お前は俺のだからな」

「あんた何言っ…!?」

いきなり口にチョコを突っ込まれる。

「いきなり何すんだよ!?」

「いい加減素直になれば?」

「はぁ!?」

「前にも言ったが、高野のことを忘れろとは言わない。けど、そろそろ俺をちゃんと見てほしい」

「桐、嶋…さん?」


桐嶋さんの気持ちが痛いくらいに伝わってくる。
切なそうに俺を見る桐嶋さんに、何も言葉が出てこない。
確かに俺は昔、政宗を愛していた。でも今は……


「横澤?」

桐嶋さんが隠し持ってたチョコを奪うように全部口に放り込む。

「あっおいっ…」


「俺はお前以外のやつからチョコを貰う気もないしお前以外のやつに渡す気もない。言っておくが今年は高野にも渡してねーから…」


「横澤…?」

戸惑ってる桐嶋さんにチョコの箱を出す。

「俺が今好きなのはあんただ」

羞恥で顔が染まるのが自分でもわかる。

「え?」

「確かに、俺は政宗をまだ忘れられない。でも…今、俺の心の真ん中にいるのは桐嶋さん、あんたなんだよ。」


初めて…なんだ。
こんな気持ちは。
人から想われることがこんなに心地好いなんて知らなかった。

「横澤。これ食べさせて?」


震える指で包装を解き、一粒とって自分の唇にはさむ。
固く目を閉じながらはさんだそれを桐嶋さんの口にそっと落とした。


「ありがとな。」

触れるだけのキスとともに
耳元に落とされる熱い吐息。

「一生、離してやんねーから。覚悟しろよ?」


それは俺の台詞。
もう離れてやんねーから。
ずっと俺の側にいろ―…


〜翌朝

「昨日リビングから物音がしてたけど…何の話してたの??」

「ゴホッ」

「大人になったらわかる話…かな?」

「ゲホッゴホッ…」

「ふぅーん」

不思議そうに首を傾げる日和と娘の頭を優しく撫でる桐嶋さん。

(ひよに変なこと教えるんじゃねー!!)

(俺の子だから大丈夫だ。)

(何が大丈夫なんだ!?何が!?)


桐嶋さんに押し倒されるまであと30分―…






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