お題部屋用

□57.めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな
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バスケは好きだった。いや、今もスポーツの中では1番好きだ。けれど、みんなとするバスケも、一緒に過ごしてきた時間もすべて思い出になってしまった。必要とされなくなるということは、あの場所での僕自身の存在意義がなくなったということ。

「正直、つらいですね」

この屋上も、1人きりだとやけに広く、静かに感じられる。

「桃井さん、赤司くん、黄瀬くん、緑間くん、紫原くん……青峰、くん……」

もう2度と話すことはないかもしれない。部活中でさえたまに気づかれなかったのだ。たとえ赤司くんや青峰くんでも、僕が意図的に隠れようとしたら見つけられないはずだ。ましてや探そうとしないのならなおさら。

「それはそれで悲しいですが、仕方ありません」

こんな僕でも、みんなのおかげでこの帝光中でレギュラーになれた。そのことは誇りに思う。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。もうすぐ5限目が始まる。
ドアを開けたときに見かけた彼はきっとまたサボるのだろう。
ちょうど建物の影で顔は見えなかった。けれど、確かにあれは。



「さよなら…………青峰くん」



もう、ここに来ることはないだろう。みんなと笑いあうことも、バスケをすることも。
楽しかった時間は心の奥に、やりきれない思いと少しの未練は一筋の涙で流し、僕は「消える」ことを選んだ。


また会える日が来たら、どうかその時は――





ーーめぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな (紫式部)ーー



20140222

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