一次元空間(小説)

□しゃっくり
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同じマンションに住んでる設定とか…。
しゃっくりを止めてあげようとするお話!
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「で、あんたァ結局なにがしたいんでさァ?」

馬鹿にするような声音で沖田に問いかけられて土方はぐっと眉をひそめた。
目の前には「土方十四郎」のプレートのかかった301号室の扉が、
隣の沖田は「沖田総悟」のプレートのかかった302号室の前に立っている。

大学から並んで帰ってきて、ここでやっと分かれ道、という、
お互いの自室の真ん前でふたりは立ち尽くしていた。
土方はため息をつくと、腕を組んだ。


この野郎はなぜこんなにもせっかちなんだ。
あれか、俺をイラつかせたいのかそうなのか。

もう一度小さく「はぁ」とため息をつくと
今度は沖田のほうが眉根を寄せる。

「なんです、ため息なんて吐きやがって、
俺をイラつかせたいんで?」


形だけは見上げながら視線はこちらを完全に見下げ果てている。

なんで俺がこんな目に。

こっちはお前の為を想ってやってんだぞ分かってんのかこの野郎。

「いいから目ェつぶって、んでこっち向け」

「は?なんででさァ。」

理由を説明されなければ行動には起こせない、
ってお前はどこの政治家だ必要のない警戒心ばっかもってんじゃねーよ、
と心中貧乏ゆすりをしながら思う。


「だからいいから目ェつむれっての!理由をいっちゃ意味がねえんだよ!」

苛々と言葉にしてやっても「え、なにいまのダジャレ?」なんて沖田は聞かない。

昔からいつもこいつはそうだ。
砂場で遊んでいた幼児のころも、小学生のころも、中学だって、高校だって、そして大学生になった今だって、
いつもこいつは俺に反抗的だ。
しかし腐れ縁なのかそれでも必ず、こいつの隣にいるのは俺だったりする。


丸い頭を見下ろして、それから視線を少し下げる。
こんなにもやかましい癖して、この友人の口のなんと小さなことか、とかなんとか思ったりして。



沈黙数十秒。


仕方ない。

俺は腹をくくって、












その唇に口付けた。






「どうだ、コラ、驚いただろーが」

「っひっく」
目を見開いた沖田の口から洩れたのはしゃっくりで。

「驚いたけどひゃっくりは止まりやせんでしたね」

くそ。なんか恥ずかしい。




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「いや恥ずかしいのはこっちだから。ここ廊下だってわかってんのかねアイツら」
「銀さん静かに。気づかれないうちに入りましょうよ、邪魔しちゃ悪いです。」


305号室の「坂田銀時」のプレートの前で3人組がこっそりと言葉を交わす。

「嫌なモン見たアル、さっさと部屋入れろヨ天パ。鍋で口直しネ!」

「しーっ、神楽ちゃんしーっ」

カチャンとしまった扉の音は、虚空にだけは響いたようだ。



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