恋に落ちたステラ

□特訓と約束
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バキッ


『え、…壊れた?』


キック力向上用トレーニングマシンにシュートを打った瞬間、とてつもなく嫌な音がした。
え?あれ?最高レベルに設定してやったはず、だよね?
なのになんでたった1回シュート打っただけで再起不能になってんの?


『うそーん…』


軽く蹴ったつもりだったんだけどなぁ。
ああぁ、みんなにどうやって説明しよう…。
なんて考えていると案の定、円堂君がさっきの音を心配してやって来た。


「鈴音、今凄い音したけど大丈夫か?…ってあぁ!?どうなってんだこれ!」

『円堂君…。ごめん、壊しちゃったみたい』

「いや、壊したってお前…これ最高レベルだろ?」

『あ、ははは…』


***



『ということがあって僕がマシン使うと全部壊しちゃいそうなので練習には参加できなくなっちゃったんだよね…。だから何かマネージャーの仕事で手伝うことないかな秋ちゃん!』

「何だかもの凄い経緯(いきさつ)ね…」

「さすがです鈴音さん…!」

『いやぁ、春奈ちゃんにそう言ってもらえると照れるnへぶぁっ!』


んん?本来ランニングマシンから飛んでくるはずのトラップシューズがなんで僕の顔面に飛んできたの?
というかあれ?前にもこんなことあったような…デジャヴ!?


「前にも言ったはずだ…。俺の妹に手を出すな、とな」


あぁ、なるほど。犯人はシスコン鬼道君か。納得。
そういえばさっきからランニングマシンで練習してたっけ。
というか、練習中まで春奈ちゃんのこと見てるってどんだけシスコンなんだ。
ある意味尊敬するよ鬼道君…!!


「だ、大丈夫?」

『うん大丈夫!心配ないよ秋ちゃん。ところで、僕に何か手伝えることない?』

「あ、えっと…それじゃあ吹雪君にドリンクとタオル持って行ってもらえる?」

『吹雪君に?』

「うん。休憩時間になってもずっと練習してて水分補給してないみたいだから…」

『ん、わかった。じゃあ行ってくるね!』


***



とは言ったものの、声かけられそうな空気じゃないよね、これ。


『ふ、ぶき…君?』


なんか、違う人みたい…。
前から練習のときや試合のときになると人が変わるなぁ、とは思っていたけど。


「こんなのじゃ駄目だ。もっと、もっと完璧にならないと…!」

『っ、吹雪君!』


気がついたら、彼の名前を呼んでいた。
このまま吹雪君を放っておいたらいつか壊れてしまうのではないか、そんな気がして。
黙って見ていることができなかった。


「っ!?…鈴音……?」

『休憩、しよ?』

「あ、…うん。そうだね」

『吹雪君、全然休憩しに来ないから秋ちゃんたち心配してたよ?』

「ごめん、集中してたから忘れてた…」

『練習熱心なのはいいけどちゃんと休憩もしてね。はい、タオルとドリンク!』

「ありがとう」

『それから…あんまり一人で無理しないで?もっと僕らに頼ってもいいんだからね!』

「…!鈴音……」

『約束だからね!』

「うん。…約束、」


小指と小指で約束を交わして、顔を見合わせて笑い合った。



――対イプシロン戦まで、あと9日。


2012.03.03

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